【司法書士監修】遺産分割のやり直し|こんな遺産分割は危険
一度成立した遺産分割協議を、改めてやり直すことは可能でしょうか?
結論から言いますと、共同相続人全員の同意があれば、再度、遺産分割協議を行うことはできます。
しかし、登記手続き上問題が生ずることがあります。
さらに、税務上の問題も生ずることがあり、本来払う必要のなかった税金を支払わなければならないこともあります。
ですから、遺産分割協議をやり直すこのとないように、はじめから遺産分割協議書の内容や条項は吟味しなければなりません。
その為には、専門知識を有する相続のプロに、遺産分割協議書の起案・チェックをしてもらうだけでは足りません。
まずは、共同相続人全員で、遺産分割協議書の内容・条項を共有することが大切です。
そして、遺産分割協議書の内容が順守されず、もめた場合の対処方法も含めて話し合いを持っておくことが重要です。
親の扶養や介護を遺産分割の内容に混ぜると危険
親の面倒を見ることと引き換えに他の相続人よりも遺産を多く取得する、という遺産分割条項をよく見かけます。
このような遺産分割条項は有効です。
例えば父親が死亡したので、父親の相続において次のような遺産分割をすることは法律上は有効です。
第1条:長男は母と同居し、同人を扶養することとする。
第2条:長男は母を扶養し、母が安心した老後を送ることができるように努力をするものとし、日々の食事はもとよりその他身の回りの世話を満足を満足を得るような方法で行わなければならない。
第3条:長男は、第1条および第2条を行うことを条件として、すべての財産を単独で相続する。
遺産分割協議書の内容が守られなかったら
長男が母の面倒を見ることを条件として遺産を全部相続しておきながら、母の面倒を見なかったらどうなるのでしょうか?
法定解除はできない
法定解除とは、約束違反を理由とする片方からの一方的な解除です。
仮に、次男がいた場合、次男(あるいは母)から長男に対して一方的に遺産分割協議をなかったことにすることはできない、という意味です。
根拠は、次の最高裁判所の判例です。
その理由としては、一度共同相続人の合意で成立した遺産分割協議を、その一方のみの意思で覆すことを認めると、法定安定性が著しく害されるからだ、と説明されています。
合意解除はできる
合意解除とは、相続人全員の同意による解除です。
長男、次男、母、共同相続人全員の合意があれば遺産分割協議を解除し、やり直すことができます。
根拠は、次の最高裁判所の判例です。
遺産分割のやり直し|まとめの表
遺産分割のやり直しの可否をまとめると次のようになります。
遺産分割協議の法定解除 | 不可 |
遺産分割協議の合意解除 | 可 |
遺産分割のやり直しに同意しなかったら
結局、遺産分割をやり直すには、母親の面倒を怠っている長男の同意も必要となります。
では、長男が遺産分割協議のやり直しに同意しない場合はどうすればいいのでしょうか?
同意しない限り遺産分割協議の解除・やり直しはできないわけですから、問題の解決はかなり困難となります。
解決方法の1つとして、母から長男に対して扶養料の請求をもとめる(協議が調わなければ扶養請求調停を利用することになるでしょう)手段が考えられます。
つまり遺産分割とは全くことなる、別の方法を考えざるを得ません。
いずれにしても、親の扶養・介護の問題を遺産分割にまぜることは、大変危険と言わざるを得ません。
遺産分割調停の内容が守られなかったら
上記の遺産分割協議(相続人の話し合いによるもの)のケースと同様に考えてよろしいかと思います。
つまり、一方的な遺産分割調停の法定解除はできないと解されます。
しかし相続人全員の合意があれば、遺産分割調停とは異なる内容の再協議を禁ずる法理はないでしょう。
ただし、この場合、再度の遺産分割もまた、遺産分割調停によらなければならないとする裁判例があります。
遺産分割審判の内容が守られなかったら
遺産分割審判は、「判決」と同種の裁判です。
したがって、遺産分割審判の内容が守られなかったことを理由に、遺産分割審判自体を法定解除したり合意解除したりはできません。
しかし、相続人全員の合意があれば、遺産分割審判とは異なる内容の再協議を禁ずる法理はないと考えます(私的自治の原則)。
遺産分割をやり直した時の登記手続
無事に遺産分割をやりなおすことができた場合は、再協議の内容を不動産登記簿に反映させる必要があります。
ケースによっていくつかのやり方が考えられます。
所有権抹消と所有権移転
例えば、再協議で母が単独相続することになったとします。
この場合、まず長男名義の相続登記を一度抹消します(所有権抹消登記)。
その上で、母に相続登記をやり直します(所有権移転)。
所有権抹消登記と所有権移転登記の2件の登記申請が必要です。
所有権更正
例えば、再協議で母と長男が半分ずつ相続することになったとします。
この場合は、長男単独名義から長男および母共有名義へ更正登記を申請することができます(所有権更正登記)。
所有権更正登記を1件だけ申請します。
所有権移転
上の2つの方法を取る場合、金融機関の承諾書を付けなければならない場合があります。
たとえば1回目の遺産分割で長男単独名義に相続登記をした後、再分割までの間に、金融機関から抵当権設定登記を入れられている場合(不動産を担保に融資を受けているケース)です。
しかし、相続人の都合で金融機関に承諾を求めても、承諾が得られないことが多いです。
その場合は、再分割により遺産を取得した相続人名義に「真正な登記名義の回復」による所有権移転登記を1件だけで申請することも可能です。
遺産分割をやり直した時の税金
遺産分割のやり直しは、税法上の遺産分割には該当せず、あらたな贈与や交換等と認められ、再分割の結果に対して贈与税や不動産取得税が課される恐れがあります。
「国税庁相続税法基本通達第19条の2-8分割の意義」が根拠です。
国税庁のホームページのリンクを貼ります。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/02/06.htm#a-19_2_8
親の扶養・介護を理由に遺産分割をやり直さないために
親の介護・扶養の問題を遺産分割にまぜてしまうと、以上のような危険があります。
つまり、相続人全員の同意がない限り遺産分割をやり直すことができないというリスクを負うことになるのです。
リスクを回避するためにはどうすればいいのでしょうか?
扶養・介護は遺産分割とは別問題
親の扶養・介護の問題と、遺産分割は切り離して考えることが重要です。
親の扶養・介護に係る費用は、扶養する相続人と親との間の問題として処理するのが望ましいでしょう。
遺言や生前贈与で工夫
扶養・介護の問題と遺産分割を切り離して遺産分割を行ったうえで、扶養する相続人に対するケアを考えます。
容易な方法としては、遺言書の作成や生前贈与が考えられます。
扶養してくれた対価として、母が長男に自己の財産を相続させるような内容の遺言作成は検討に値します。
そして、長男が扶養を怠るようなことがあれば、遺言を書きなおすことにより当初の遺言を撤回することもできますから柔軟な対応が可能となります。
また、扶養してくれた対価として、母が長男に自己の財産を生前贈与するという方法も考えられます。
いずれにしても、遺産分割の中で、母の面倒を見る見返りとして長男に全てを相続させてしまうという条項は避けるべきですし、他にも方法はあるという事です。
遺産分割の専門家による無料相談
私たちは、遺産相続手続き専門の司法書士事務所です。
東京国分寺で約20年にわたり相続問題に積極的に取り組んでいます。
遺産分割は税務も関係する、非常に専門性の高い内容となります。
さいわい私たちの事務所には、相続税に詳しいパートナー税理士がおります。
まず相続問題、相続トラブルを専門家に相談してみませんか。
当事務所では毎週土曜日に無料相談会を開催しています。
ご予約はお電話か、予約フォームよりお待ちしています。
ぜひお気軽にお問い合わせください。
東京司法書士会会員
令和4年度東京法務局長表彰受賞
簡裁訴訟代理等関係業務認定会員(法務大臣認定司法書士)
公益社団法人成年後見リーガルサポート東京支部会員
家庭裁判所「後見人・後見監督人候補者名簿」に登載済み
公益財団法人東京都中小企業振興公社「ワンストップ総合相談窓口」相談員
公益財団法人東京都中小企業振興公社「専門家派遣事業支援専門家」登録