本人が自分で作成した「自筆証書遺言」は、相続開始後(本人の死亡後)に家庭裁判所で手続きが必要です。この手続きを「検認」と言います。このページでは、家庭裁判所で行われる検認手続きについて必要なことを網羅的に解説します。
遺言書の検認とは|何のための手続きか?
検認手続きは遺言書の内容の有効・無効を判断する手続きではありません。単なる証拠保全手続き(確かに遺言書は存在するという事を確認した程度の意味)とされてます。遺言書そのままの状態を、裁判所において記録し、残しておく手続きです。専門家向けの書籍では次のように説明されています。
検認は、相続人に対し遺言の存在およびその内容を知らせるとともに、遺言書の形状・加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための一種の検証・証拠保全手続であり、遺言の有効・無効を判断する手続ではない。 書式 家事事件の実務|民事法研究会
したがって、検認手続きを経たからといって、遺言書の内容が正しいと判断されたり、遺言書が有効であると保証されるわけではありません。
検認手続きを経た遺言書の内容に不満(例えば本人の筆跡ではない等)があれば、遺言無効確認の訴えなどを提起することにより、相続人がその内容について争うことになります。検認の手続きでは遺言の内容について争うことはでできません。
遺言書の検認をしないとどうなるか?
検認手続きを経ないからといって、遺言が無効になることはありません。しかし、検認手続きをしていない遺言書では財産の承継手続きは行えません。たとえば、不動産の相続登記を行うことはできないとされています。ですから遺言の内容通りに財産を承継したいのであれば、検認はやらざるを得ない手続きとなります。
なお、検認をしないと行政上の罰金が科されることがあるので注意が必要です。民法1005条は次のように規定しています。
前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、5万円以下の過料に処する。電子政府の総合窓口|e-Gov
当然のことですが、申立てもしていないのに、家庭裁判所が「遺言書の検認をしたか」などと相続人らに対して調査することは絶対にありません。しかし、実際の手続き上は、検認を経ないで遺言を執行(遺言通りに相続手続きを行うこと)することはできないので、過料についてはあまり問題にならないかもしれません。
明らかに無効な遺言書でも検認は必要か?
検認が必要な遺言書は、すべての遺言書ではなく、原則的に本人が手書きで書いた自筆の遺言書だけです(詳細は後述)。そして、自筆証書遺言には法律上の有効要件があり、それを充たさない遺言書はそもそも形式的に無効となります。自筆の遺言書の法律上の有効要件については、別のページに詳しい解説を掲げました。もしよろしければお読みください。
問題となるのは、法律上の有効要件を充たさない明らかに無効な遺言書についても検認は必要なのか、という点です。たとえば、自筆遺言書に本人の印鑑が押印されていなかった場合などは、それだけで形式的に無効となり、そもそも相続手続きでは使えないのですが、それでも検認は義務なのか。
結論から言いますと、この場合でも検認は必要と解されます。検認手続きは遺言が有効か否かを判断するものではなく単なる証拠保全手続きですから、遺言書としての外観があるのであれば、検認手続きはやらざるを得ないものです。
遺言書の保管者が検認拒否してる…
例えば相続人が遺言書を保管しているにもかかわらず、なかなか検認を行おうとしない、検認を拒否しているとき、一体どうすればいいのでしょうか。結論から申し上げますと、その相続人は相続人資格を失う可能性があります。つまり、遺産を相続できなくなることがあるのです。遺言書の隠匿については詳しく解説したページを別に用意しています。よろしければお読みください。
■【司法書士監修】遺言書を隠して検認を怠ったらどうなるのか?
すぐわかる!遺言書の検認手続き
それでは、当事務所によくある質問を1問1問形式で解説します。遺言書の検認手続きの全体像が理解できるような質問を取り上げました。興味のある項目をお読みください。
ポイント1どのような種類の遺言書か?
法律上遺言書にはいろいろな種類がありますが、裁判所に遺言書の検認の申し立てを行う必要があるのは、自筆証書遺言だけです。ただし、遺言書保管制度によって法務局で保管されている自筆証書遺言は例外として検認は不要となります。
また、一般的によく利用されている公正証書遺言書については、検認は必要ありません(民法第1004条)。
ポイント2いつまでに申し立てるのか?
法律上「◯◯か月以内」というような期間の制限はありません。民法第1004条によると、「相続の開始を知った後、遅滞なく」と規定しているだけです。つまり速やかに申し立てるべきと規定しているだけで、具体的な日数に関する規定はないという意味です。
ただし、上に掲げた通り、いつまでも検認を行っていると相続人資格を失う可能性もありますから、できるだけ早めに検認の申し立てを行うべきと言えるでしょう。
ポイント3誰が申し立てるのか?
遺言書の保管を委任された人、遺言書を発見した相続人、事実上遺言書を保管している人、などが申し立てることができます。
ポイント4どこの裁判所に申し立てるのか?
遺言者の最後の住所地(住民票上の最後の住所)の家庭裁判所に書類を提出することになります。例えば、最後の住所が東京都国分寺市であった場合は、東京家庭裁判所立川支部に検認の申立を行います。これを管轄と言います。
つまり、裁判所に申し立てると言っても、どの裁判所でも良いという訳ではありません。参考までに東京都の管轄の裁判所を一覧にしました。
管轄裁判所 | 管轄区域 |
東京家庭裁判所 本庁 | 23区、三宅村、御蔵島村、小笠原村 |
東京家庭裁判所 立川支部 | 八王子市、日野市、あきる野市、西多摩郡、立川市、府中市、昭島市、調布市、国分寺市、国立市、狛江市、東大和市、武蔵村山市、武蔵野市、三鷹市、小金井市、小平市、東村山市、西東京市、清瀬市、東久留米市、青梅市、福生市、羽村市、町田市、多摩市、稲城市 |
東京家庭裁判所 八丈島出張所 | 八丈町、青ヶ島村 |
東京家庭裁判所 伊豆大島出張所 | 大島町、利島村、新島村、神津島村 |
ポイント5申立ての手数料は?
遺言書(封書の場合は封書)1通につき800円です。遺言書が何枚にわたって書かれているか、ページ数は関係がありません。遺言書1点あたり800円という表現の方がわかりやすいかもしれません。申立書に収入印紙を貼付して納付します。
これと併せて予納郵便切手が必要になります。管轄の裁判所に検認の申し立てをすると、裁判所が相続人等に通知を郵送します(詳細は後述)。これにかかる郵便切手を予納郵便切手として申し立て時に添付する決まりになっています。金額は相続人の数など条件によって変わってきます(数千円の場合が多い)。事前に管轄の裁判所のホームページを確認するか、記載がない場合は電話等で問い合わせをすれば教えてくれます。
なお、検認の申し立て手続きの一切を弁護士や司法書士に依頼することもできます。当事務所では、80,000円(税別)で代理しています。遺言書の検認申立ての書類作成および保管者としての裁判所への出頭を含む手続きの代理ですから、依頼者は裁判所等へ出頭する必要がなくなり、すべて当事務所が行います。
ポイント6遺言書の封印を開封していいのか?
自筆証書遺言は封筒に入れてあっても、入れてなくてもどちらでも構いません。法律上の有効要件とはされていないからです。ただし、封筒に入れてあり、なおかつ封印がされている場合(例えば糊で貼付されているケース)は、勝手に開封することはできません。
封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いがなければ、開封することができない。電子政府の総合窓口|e-Gov
これに違反して勝手に開封した場合は、すでに掲げた民法第1005条(検認を怠った場合の規定)が適用されて5万円以下の過料に処せられることがあります。
ポイント7検認の申し立ての必要書類は?
検認の申し立てを行う場合、申立書の添付書類は一般的に次の通りとなります。これ以外の書類が必要となるケースもありますが詳しくはお問い合わせください。
- 申立人および相続人全員の戸籍謄本 各1通
- 遺言者の死亡から出生に遡るすべての除籍謄本・改製原戸籍謄本等 各1通
- 遺言書が開封されている場合は遺言書のコピー 1通
遺言書の原本を申立書に添付することはありません。遺言書の原本は「検認期日」に申立人が持参するのが通例です(詳細は後述)。また、遺言書が開封されていない場合はコピーを添付することはできないので、「3」については無用となります。
ポイント8検認手続きの流れ
自筆遺言書の検認の申立書を提出し、しばらくすると、家庭裁判所から申立人に対して電話があります。申立人は遺言書の原本を家庭裁判所へ持参して「検認期日」に出席しなければならないため、「検認期日」の日程を調整するための打合せを電話で行います。
裁判所は平日のみ開庁しており、夕方は5時までです。裁判所も他の事件で混雑している為、申し立てをしてもすぐに「検認期日」を開いてくれるとは限りません。通常は、申し立てをしてから早くても2~3週間後の日が検認期日になることが多いです。
申立人との日程の打合せが終わり、検認期日が決定すると、裁判所から相続人全員および利害関係人(受遺者など)に検認期日通知書が郵送されます。実務上は、遺言書が開封されているか否かを問わず、相続人等全員に検認期日を通知しています。
検認期日通知書を受け取った相続人らは、検認期日に出席することができます。検認期日に欠席しても構いません。出席するか否かは自由です。もし欠席したとしても罰則はありませんし、その後の相続手続きで特段不利に扱われることもありません。
検認期日は1日のみで終わります。時間は長くても30分位です。裁判所の中にある傍聴席が無い小さな法廷で行われることが多いです。裁判官を前にして、向かって左手側が申立人の席になります。右側がそれ以外の相続人等の席になります。
検認期日では、まず申立人が持参した遺言書の原本を裁判官(または裁判所書記官)に手渡します。裁判官はこの遺言書が封印されているものか、開封されているものか等、遺言書の外観に関する事柄を1つ1つ確認していきます。遺言書が封印されている場合は、その場でハサミ等を使用して開封します。
遺言書については、保管の経緯を申立人などの保管者に質問します。そして、裁判官が自ら出席者の全員に順番に遺言書原本を見せて、筆跡と印影について確認をしていきます。出席者の回答の仕方は次の3通りになります。
- 本人の筆跡(印影)である(と思う)
- 本人の筆跡(印影)でない(と思う)
- わからない
先にも掲げたように、検認とは単なる証拠保全手続きにすぎませんから、検認期日で例えば「本人がこんな遺言を書くわけがないので無効だと思います」等の発言をしても意味がありません。裁判官も遺言書の実質的な内容については何も触れませんし、出席者からそのような発言があっても「検認ではそのような問題は扱わない」というような趣旨を説明するだけです。
全員の回答が終わると、検認手続きも終わりになります。即日「検認済証明書」が作成されて、遺言書の原本の末尾に編綴され、裁判所の契印されたもの(検認済み遺言書)が交付されます。裁判所が遺言書を保管することはありませんから、検認済み遺言書は申立人に返却されます。これで検認手続きは終了です。
なお、この検認期日の様子(遺言が封印されていたか否かや・遺言書の現状・出席者の回答など)は、裁判所において「検認調書」という文書として作成され、後日遺言に関する裁判等を行う際の証拠資料に利用できます。
また、検認後、裁判所から検認期日に欠席した相続人などに対して「検認済通知(検認がされた旨の通知)」をします。検認済通知書には遺言書のコピーなどは添付されていません。
検認済み遺言書は検認が終わると裁判所から申立人へ直接返還されるため、申立人以外の出席者や欠席者については遺言書のコピー(控え)は手元には残りません。コピーが必要な場合、出席者であれば、その場で申立人にコピーさせてもらえるように頼めばよいでしょう。裁判所に備え付けのコピー機を利用すれば簡単に終わります。
欠席者については、後日申立人や遺言の保管者にコピーの送付等を求めれば良いでしょう(連絡先は検認済通知書に記載されています)。直接連絡をとりたくない場合は、裁判所へ「検認調書」の請求をします。検認調書には遺言書のコピーも合綴されています。
ポイント9検認後の流れ
裁判所での検認手続きが終わったら、原則的には遺言書の内容通りに相続手続き等を行います。これを「遺言の執行」と言います。誰が遺言の執行の手続を行うべきかは事例によって異なりますが、原則的には遺言執行者がすることになります。遺言執行者について詳しい解説は別のページにありますので、もしよろしければお読みください。
また、遺言の内容通りに相続するのではなく、相続人で遺産分割協議を行って、遺産の分け方を決めることを検討する方もいるかと思います。この点につきましても、別のページに詳しい解説をしましたので、もしよろしければお読みください。
なお、遺言書の内容によっては遺留分侵害額請求権の行使を踏まえた遺言の執行が必要である場合や、遺言無効(有効)確認の訴えなどの裁判を検討しなければいけないケースもあるでしょう。いずれにしても慎重な判断がもとめられますので、まずは専門家に相談することをお勧めします。
解決案の提示|遺言の検認で困っている
以上のように、自筆の遺言書が発見された場合は、とりあえず裁判所で検認手続きを行うことを検討しなければなりません。遺言書が封印されている場合も、封印されていない場合も、その後の財産の承継で不安に感じることがあるかもしれませんが、どちらにしても検認手続きを経なければ相続手続きを行うことはできないので、まずは検認の申立て手続きを検討しましょう。
しかし、裁判所への手続きが初めてで不安、書類の書き方や手続きの進め方が上手く分からないという理由で申立手続をためらっている方も多いと思います。
当事務所では、申立に必要な書類の収集、申立書の作成、検認期日への出頭など、検認手続きに関する一切を行います。東京都内の裁判所に限られず、全国の裁判所への申立てに対応しますのでお気軽にお問い合わせください。
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私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。
このページでは、「すぐわかる遺言書の検認」として、自筆の遺言書の検認手続きについて全体像をお話ししました。
自筆の遺言書の検認は法律上は確かに必要なものですが、実質的にケースごとに判断することも重要です。ご自身の思い込みやインターネットの情報のみを元に検討するのではなく、専門家のアドバイスを踏まえて、様々な可能性を検討した上で判断すべきでしょう。
また、遺言の執行・相続の手続きをこれから始めるにはどうすればよいのか、費用はいくら位かかるのか、他にも様々な疑問があることと思います。
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