【相談事例】司法書士が教える「前妻の子に相続させない方法」とは
「相続人に前妻の子がいるのだがどのように対処すればよいのか?」「そもそも前妻の子は本当に相続人になるのか?」は、当事務所に多い相談の一つです。あなたも同じ悩みを持っていますか?
確かに、再婚の場合に、前妻との間に子供がいるケースというのは決して少なくありません。そして前妻との間の子供とはすでに連絡を取っておらず、関係性も薄いのに本当に財産を相続することになるのか?と疑問を持つのも無理はないでしょう。
このページでは創業20年、実績豊富・地域随一の相続専門の司法書士事務所が「【相談事例】司法書士が教える「前妻の子に相続させない方法」とは」と題して、実際に当事務所にあったご相談を例にして、今まさに相続問題でお困りのあなたの疑問にお答えします。
このページを見れば『前妻の子どもは本当に相続人になるのか?』『前妻の子に相続させないための法律上適法に認められる方法とは?』の具体的な対策・対処法や注意点ついて、これまでわからなかった疑問点がスッキリ解決すると思います。
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【相談】前妻の子に相続させない方法を教えてください
次のような相談がありました。
【回答】前妻の子に相続させない方法として遺言書は定番の策
この相談について次のように回答しました。
相続人に前妻の子がいる場合に覚えておくべきチェックポイント
この相談のポイントは次の通りです。
- 前妻の子は相続人になれるのか、またその相続分は
- なぜ後妻と前妻の子は遺産相続でもめるのか
- 相続が開始後、前妻の子と遺産分割協議を不要にする方法とは(遺言の作成)
- 遺言書があれば安心か
- 前妻の子ともめないための遺言書の書き方とは
- 遺言書を作成する以外に、前妻の子に相続させない方法はないのか(生前贈与など)
では順に解説していきたいと思います。
前妻の子は相続人か?相続分は?
まず、今回の相談事案に関して、夫が死亡した場合の相続人は誰なのかが問題です。順に考えていきましょう。
前妻は相続人ではないが、前妻の子は相続人である
もし、夫が生前に財産に関して何らの遺言も残していなければ、夫の配偶者と夫の子が共同で相続人となります。つまり、下の図で言いますと、後妻・前妻との子1・前妻との子2の3人が夫の相続人となります。
なお、ここで言う「配偶者」とは、相続が開始した時点(つまり死亡した時点)で戸籍上配偶者となっている方を指しますので、後妻を意味します。
すでに離婚している前妻はここでいうところの「配偶者」にあたりませんから、相続人ではありません。ですから基本的に前妻は相続の関係者ではありません。
次に「子」とは夫の子を指すわけですが、具体的には前妻との間に生まれた子1および子2です。
もちろん夫が死亡するまでの間に、後妻との間に子が誕生していれば、その子も相続人になります。
しかし、事例が複雑になりますから、ここではとりあえず後妻との間の子は考えないことにします。
割とよくある勘違いで「離婚すれば前妻の子と父の血縁は切れるのではないか?」というのがあります。答えは「離婚しても血縁は切れません」。仮に子がすでに結婚して独立していても結論は同じです。
また、事例によって様々ではありますが、前妻の子とは音信不通(連絡先も知らない)ケースが多いように見受けられます。
そうすると「離婚してから全く連絡を取っていないのに相続人になるのはおかしいのでは?」と感じられるのも無理はないのですが、連絡を取っているか否かは、相続人になるかどうかとは関係のない話となります。
相続人には法律上の順位・範囲がありますが、配偶者と子供は同じ順位で、どちらが優先するということはありません。
前妻の子の法律上の相続分は、2分の1(子1名の場合)
次に、夫が遺言書を残さなかった場合の、具体的な相続分についてです。
まず、配偶者である後妻は2分の1の相続権を有します。そして、残りの2分の1を子供の人数で頭割りすることになります。
もし、子供が1名なら、その子供は2分の1の相続分があります。つまり、後妻と子供で半分ずつの割合という結論です。
今回の相談事例は前妻の子が2名いますので、子の相続分である2分の1を子の人数で割ることになります。
つまり相談事例のケースの法律上の相続分は以下の表の通りとなります。
相続人 | 法定相続分 |
後妻 | 4分の2(=2分の1) |
子1 | 4分の1 |
子2 | 4分の1 |
前妻の子と後妻の子の相続分は同じ(差はない)
今回の事例とは違いますが、もし後妻にも子がいた場合、前妻の子と後妻の子で法律上の相続分に違いはあるのでしょうか。結論は、法律上の相続分は同じ、です。
よくある誤解の一つですが、後妻の子の方が相続分が多いと勘違いして、自分たちに有利に遺産の分割の話し合いを進めようとする方がいます。相続割合に差はありません。
専門家を介さずに、相続人だけで遺産の分割の話合いをしようとする場合は、正しい知識を身に付けたうえで行わなければ、必ず失敗します。話し合いの進め方に十分に注意してください。
なお、「認知されていない子」や「非嫡出子(婚姻外で生まれて認知されている子)」が相続の対象となっている場合の注意点は当事務所の公式ホームページの別ページの記事で詳しく解説しています。
遺言書があれば、前妻の子との遺産の協議を不要にできる
もし夫が遺言を作成しなければ、相続財産は後妻と前妻の子が共同で相続することとなり、その手続きに際しては、主に後妻が前妻の子の承諾を得るような流れで話が進むことでしょう(後妻が通帳などを管理しているため)。
しかし、夫が遺言書さえ作成すれば、遺言書の内容で共同相続人の相続分を自由に定めることができますし、前妻の子に一切相続させないとすることもできます。相続人の一部に一切相続させない遺言の内容も、それ自体で無効になることはありません。
ですから、相談事例の場合、前妻の子に相続させないような遺言を作っておけば、実際に相続が開始した時に、後妻が前妻の子の署名捺印や印鑑証明書をもらったり(そもそも協力してもらえるのかという問題がありますが)、煩雑な手続きを行わず名義変更・登記など済ませることができます。
この後説明しますように、前妻の子に相続させないとする方法は他にもあります。しかし、どの専門家も「遺言書を作成すること」を第一の方法として提案しています。その位、定番でメリットの大きい手法ということです。
遺言書を作るなら公正証書で作成することがおすすめです
遺言書の作り方は、一般的には自筆で作成するか(自筆証書遺言)、公証人に作成してもらうか(公正証書遺言)となります。
自筆証書遺言は、手軽で費用もかかりません。もし保管場所で不安がある場合は「自筆証書遺言の保管制度」を利用して法務局に預けることもできます。詳しくは別のページで解説しています。
しかし、相続開始後の争いが予想されるケースにおいては、公正証書遺言の作成をお勧めしています。
自筆証書遺言については、相続開始後にその作成の真否等を争う裁判が起こされやすく、そのため相談事例のようなケースには不向きと言えます。
自筆証書遺言が良いのか、公正証書遺言が良いのかについては、何を重視するかによって結論も変わってくるところです。別のページで関連の事項を詳しく解説しました。ぜひ参考にしてみてください。
遺言書があっても安心できない|前妻の子から金銭賠償請求されることも
それでは、前妻の子に一切相続させない遺言書を作成したとして、それで安心と言えるのかが次の問題です。
実は、相続人には法律上保証された最低限の取り分というものがあります。上記で説明した「法律上の相続分(法定相続分)」とは異なるもので、「遺留分」と呼ばれるものです。
今回の相談事例の「前妻の子に一切相続させない」のように、遺言の内容が前妻の子の相続分や遺留分を一方的に奪うような内容であっても、この遺言書自体は有効です。無効ではありません。
ところが、遺言の内容通りに相続した場合、相続開始後に前妻の子から金銭賠償の請求(=遺留分侵害額請求)を受けることがあり、請求されればこれに応じなければなりません。
請求された金額が正しいかどうかはまた別の問題(争う余地はある)としても、法律上は支払いの義務はあるという意味です。
第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。民法|e-Gov法令検索
前妻の子の遺留分はどのくらいか
それでは今回の相談事例について、前妻の子を含めた相続人全員の遺留分はどのようになるか、法定相続分との比較で、下の表に一覧にまとめました。
相続人 | 遺留分 | 法定相続分 |
後妻 | 8分の2 | 4分の2(2分の1) |
子1 | 8分の1 | 4分の1 |
子2 | 8分の1 | 4分の1 |
今回の相談事例は、相続人が後妻と前妻の子2人の場合ですから、後妻が8分の2(=4分の1)、前妻の子がそれぞれ8分の1ずつの遺留分となります(民法第1042条)。
簡単な事例で遺留分を計算してみると
例えば今回の相談事例で夫が遺言書に「遺産はすべて妻に相続させるものとする」と書いたとします。夫の遺産が800万円としましょう。
この場合、確かに遺言書の通りに、妻は800万円全額をいったんは相続できます。しかし、前妻の子1と子2はそれぞれ8分の1の遺留分がありますから、それぞれから100万円(800万円×8分の1)を請求されれば、支払わなければなりません。
つまり、遺留分のことまで考えると、妻が取得できる遺産は600万円のみ(800万円ー200万円)となるのです。
遺留分侵害額請求は手紙やメールでくるかもしれない
遺留分侵害額請求は、自分の遺留分が侵害されたことを知った相続人からなされます(法律上の期限・時効は1年とされています)。
今回の相談事例の場合、前妻の子から後妻に対して権利が行使されることでしょう。アクセスの方法は様々です。メールや電話、手紙、内容証明郵便、代理人弁護士からの通知、色々なケースがあります。方法に限りはありません。
いずれの場合であっても、遺留分侵害額請求は法律上認められた権利ですから、これを無視したりすることはできません。
しかし、請求されたからと言って、請求された金額をそのまま支払うというのも得策とは言えません。何故なら遺留分の侵害額を計算するには、複雑な計算を要することもある為、通常は弁護士を代理人として話し合わなければ正確な金額は算定できないことが多いためです。
いずれにしましても、遺留分侵害額請求をされた場合は、最終的には一定の金銭を支払うことになります。
遺留分侵害額請求に備えて現金などを用意しておく
上記のように、生前から遺留分の侵害額を計算できるような場合は、請求に備えてあらかじめ現金を用意しておくというのも良いでしょう。
ただし、相続する遺産の中から支払えそうな金額であれば、あらかじめ用意しておかなくても大丈夫です。相続する預金などを解約して、その中から支払えば十分です。
相続する財産が不動産だけという場合は、遺留分を請求されても手元に現金がないという困ったことになりますので、生前に遺留分相当額の現金を用意しておいたり、生命保険に入っておいて死亡保険金をこれにあてるなどの準備が必要になります。
遺産相続で前妻の子ともめないための遺言の書き方
このように、遺言書があっても遺産相続においては前妻の子と後妻はもめる可能性は十分にあるという点はお分かりいただけたと思います。
それでは、遺産の相続で前妻の子と後妻がもめないためにはどうすればいいのか。
それは、遺言書の内容を工夫して書くという事です。具体的には次のようなやり方があります。
遺言書に遺言理由を付言として書いておく
遺言書の中に、なぜこのような内容の遺言書となったのか、という理由を「付言」として書いておくことが、後々のトラブルの防止に役立つ可能性はあります(「付言」については次の項目で解説します)。
つまり、なぜ前妻の子に相続させない内容となっているのかを明記しておくということです。
例えば、次のような理由が一例として考えられます。
- 前妻の子には学費としてすでに多額を援助している(慰謝料や養育費を支払っている)
- 後妻との間には子供はなく、後妻が生計を維持していくのは困難である
遺言書に書いた内容のうち、法律的な効力が認められるのは、法律に定められた法定遺言事項に限られます。これ以外の事項を遺言書に書いても何らの法的拘束力も生じません。
つまり、付言として書いた遺言理由は、法定遺言事項でないため、遺言書に書いても法的な効果はありません。しかし遺言理由を書くことは禁じられていませんし、「無用な争いは止めよう」という心理的な効果を相手に与えることは期待できます。
ただし、その内容によっては、逆に紛争を招く結果となることもあります。遺言理由を記載する場合には、専門家などのアドバイスを聞て、状況に応じた内容にする必要があるでしょう。
遺言書に遺留分侵害額請求をしないように付言を書いておく
遺留分侵害額請求権は法律が相続人に与えた権利ですから、他人がこれを奪うことはできません。
ですから、遺言書の中に「前妻の子は後妻に対して遺留分侵害額請求権を行使しないこと」と書いても法的な拘束力はありません。
しかし、前妻の子も納得できるような「理由」と合わせて、遺留分侵害額請求をしないように懇願する「付言」を付け加えれば、トラブルの防止につながる可能性は高くなるかもしれません。
法律的には効力のない部分で、葬儀や埋葬に関する希望や、相続人へのお願いごとや感謝の念などを書いたりする部分です。「付言」は必須の内容ではありません。
ただし、これも内容によっては逆に紛争を招くこともあります。つまり、そもそも遺留分侵害額請求という制度を知らなかった相続人に、そのきっかけを与える結果になることもあります。
遺言書は遺留分に配慮した内容にする
すでに解説しましたように、遺留分を一方的に奪う内容の遺言がある場合、相続開始後に相続人から遺留分侵害額請求を受けることがあり、請求された時にはこれに応じなければなりません。
そこで、そのような相続人間のトラブルを避けるために、遺言の内容を遺留分に配慮したものにすることも考えられます。
たとえば相談事例の場合、前妻の子の遺留分は各8分の1ずつですから、最低でも8分の1程度は相続させる内容にしておくという事です。
つまり、遺産の全部を後妻に相続させるという内容にするのは諦めて、前妻の子にも最低限の相続分は相続させるという内容に方向転換するという意味です。
そうすれば、死後に後妻が遺留分侵害額請求のトラブルに巻き込まれるのを阻止することができるでしょう。
遺言書を作成する以外で前妻の子に相続させない3つの方法とは?
これまで、前妻の子に相続させない方法としては「遺言書(しかも公正証書遺言)を作成すること」が一番良い方法であるとお伝えしてきました。
それでは、これ以外に方法はないのでしょうか。方法はあります。以下の項目で、生前にできる法的にも有効な方法を解説します。
「後妻へ生前贈与をしてしまう」という方法は一般的な方法
まず第一に、夫の財産を後妻へ生前贈与してしまうという方法があります。生前贈与は一度にまとめて行う必要は必ずしもないので、数回に分けて実行することもできます。また数回に分けて行った方が贈与税の観点からもよいケースもあります。
生前贈与は、夫と後妻の契約で行います。必ず贈与契約書を作成して、贈与税の有無(贈与税がかかる場合は高額になることもあるのでご注意ください)などに関して税理士のアドバイスを受けるとよいでしょう。
つまり、夫が亡くなった時点で、夫名義の財産がなるべく少なくなうように、生前から少しづつでも準備しておくというやり方です。
ただし、もし贈与税がかかってしまうと、デメリットが大きくなってしまうこともあるでしょう。
「後妻と死因贈与契約を結ぶ」という方法もある
第二の方法は、死因贈与契約というあまり一般的に知られていない方法です。
生前に夫と後妻の間で死因贈与契約を締結します。証拠が残るように「死因贈与契約書」を書面で作成するとよいでしょう。
死因贈与契約は、生前贈与と同じように、生前に契約を結ぶのですが、実際に贈与の効果が生じるのは夫が死亡したときです。つまり、夫が死亡して初めて贈与した財産が後妻に帰属することになります。
死亡して初めて効力が生じるという意味では、これまで説明した「遺言」と同じです。しかし、遺言書が夫単独で作成するものであるのに対して、死因贈与は夫と後妻の契約で作成するものであるという点が違います。
「生命保険を使って保険金はすべて後妻に受け取らせる」という方法
第三の方法です。もし、夫の遺産のほとんどが現金・預貯金しかないというのであれば、その現金・預貯金を使って夫が生命保険に入り、保険金の受取人を全額後妻と指定しておくという方法があります。
受取人が指定されている保険金は、受取人固有の財産となり、相続人全員で遺産分割することは不要です。
金融資産を保険金に組み替えるというこちらの方法も、広く使われている手法のひとつです。
それ以外の方法|相続放棄・遺留分の放棄
上で説明した3つ以外の方法として、前妻の子に相続放棄してもらう、前妻の子に遺留分を放棄してもらう、という方法もあります。
確かに法律上はそのような制度は存在します。しかし、これらは前妻の子が自ら行うべき手続きであり、後妻の側から提案したり、強要したりする方法ではありません。
前妻の子との遺産相続、一体どうすれば…
これまでの説明のとおり、前妻の子との遺産相続をもめないようにする最善の対策は公正証書遺言の作成となります。概要は理解できましたでしょうか。しかし、遺言書という書類があれば安心という訳ではなく、その内容がとても重要と言えます。
公正証書遺言は自筆証書遺言と異なり、公証人による本人確認、遺言作成時の証人の立会など手続きが極めて厳格で、遺言の有効性を巡って相続開始後に争われるリスクを軽減させることができます。
いずれにしても、このページで解説したような事情があって、どのようにすべきか迷ったら、当事務所にご相談ください。
自分自身の判断で話を進めるよりも、まずはこのような問題に詳しい相続手続きの専門家に相談し、無駄な時間はかけず、最適な方法のアドバイスを受けるようにしましょう。
無料相談を受け付けています
私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。オンラインにより全国対応をしています。
このページでは、「【相談事例】司法書士が教える「前妻の子に相続させない方法」とは」と題して、実際に当事務所に寄せられた相談を少しアレンジして紹介・解説しました。同じような問題で困っている方の参考になれば幸いです。
夫が故人となり、前妻の子との遺産のトラブルがすでに生じている場合は、実際には当事者同士が代理人(弁護士)を付けて話し合いで解決するか、それができない場合は裁判(家庭裁判所など)になります。
当事務所には、相続実務に精通している提携の弁護士がいます。相続税の申告に強い提携の税理士もいます。
ぜひそのような問題を解決する場面で私たち相続手続きの専門家をご活用いただければと思います。専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。相続に関するさまざまなサービスを提供・代行しています。
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