【司法書士監修】勝手に相続登記がされることがあるのか

相続が開始した後、まだ遺産分割の話し合いもしていないのに、自分の知らないうちに勝手に相続登記がされることがあるのでしょうか。このページでは、相続手続き専門司法書士の観点から、多角的にこの問題を解説します。また、もし勝手に相続登記がされてしまった場合の対処法についても考察します。
相続登記とは|名義変更の必要性
問題の解説に入る前に、そもそも相続登記とは何かについてから簡単に説明します。相続登記とは故人の所有する不動産の名義を、相続人へ変更する手続きのことを指します。
現時点では相続登記は義務ではありません。相続登記を行わなくても罰金などの制裁もありません。相続登記は相続人側から手続きを行うことになりますが(多くは司法書士が代理人となって行いますが)、手続きを行わなくても罰則が無いため、あえて相続登記を行わず、その結果所有者不明となっている不動産が社会問題化し、政府は数年内に相続登記を罰則付きで義務化する方針です。
いずれにしても相続人側が自ら相続登記を行わない限り、その不動産の名義は故人のままとなります。国が相続人に代わって相続登記を行うことは原則としてありません。
なお、不動産を相続した後に売却処分するような場合は、売却の前提として手続き上相続登記は行わなければなりません。この点「抜け道」はありませんから、相続登記は必須の手続きとなります。
また、相続登記に期限はありません。つまり「死亡してから何か月以内に手続きしなければならない」という締め切りはないのです。しかし、相続税の手続きを税務署で行わなければならない場合は、相続税の手続きが10か月以内とされているため(現在はコロナ禍にあることを理由とすれば若干の猶予あり)その期間に合わせた相続登記を行うのが普通です。
一般的な相続登記までの流れ
表題の「勝手に相続登記がされる」という流れは、非常に特殊な事例です。ですから、まずは一般的な相続登記のされ方、流れを解説します。一般的な相続登記までの流れが理解できると、勝手に相続登記がされるというケースが如何に変わった相続登記のされ方であるかがわかるかと思います。
1.相続の開始を相続人が知る
故人が亡くなった事実を相続人が共有するところから話は始まります。相続と言ってもそのパターンは多種多様ですから、相続の開始をどのように相続人が知るのかについても様々です。自分の両親や兄弟であれば、まさに臨終の瞬間に立ち会っていることもあるでしょう。自分の祖父母や叔父叔母であれば、電話や手紙、メール等でしばらく経ってから知ることもあるでしょう。
2.遺産分けについて話し合う|遺産分割協議
弁護士・司法書士・税理士などの専門家がすでに間に入っていれば、それらが相続関係の書類を収集して故人の遺産を明らかにします。もし専門家がいなければ、相続人のうち故人と近しい人がそのような作業を行います。そして、相続人全員に連絡を取り、遺産の分け方について方向性をまとめることになります。話し合いが合意に達したら「遺産分割協議書」としてまとめ、相続人全員は署名捺印をします。
例えば、相続人がXYZの3名いて、故人の所有していたA建物はXが相続することにした場合は、その旨の遺産分割協議書に相続人XYZの全員が署名捺印をします。これによりA建物を相続する権利はXだけが有し、残りの相続人YZには相続権が無いことが確定することになります。
3.相続登記を行う
故人の不動産を誰が相続するかについては「遺産分割協議書」に書かれているため、「遺産分割協議書」に基づいて、相続人から不動産を管轄する法務局に相続登記の手続きを行います。これは不動産を相続することになった相続人のみが行う手続きですから、他の相続人は「遺産分割協議書」に署名捺印をした後は関与することはありません。
例えば遺産分割協議書の中に「A建物はXが相続する」と書かれていれば、A建物の相続登記の手続きはXのみが行うため、他の相続人は関係がないという意味です。相続登記が完了すると、法務局からX宛に新たな権利証(正確には登記識別情報通知と言います)が発行されて手続きは終了です。
勝手に相続登記がされることはある|2つのケースと対処法
そこで、表題の「勝手に相続登記がされることがあるのか」についてですが、結論から申し上げますと「勝手に相続登記がされることはあります」。もちろん相続登記は通常は上記で解説したような流れで行われますから、勝手に相続登記がされるのは異常な事態であることには違いありません。
しかし、もし勝手に相続登記がされても、事件性のない場合と事件性のある場合の2つのケースが考えられます。それによってその後の対処の仕方も異なります。そこで、2つのケースを分けて考察してみます。
事件性のないケース
勝手に相続登記がされているとしても事件性が無い場合としては次のような場合が考えられます。
- 法定相続分通りに相続登記がされている場合
- 遺言書の内容通りに相続登記がされている場合
まず「1.法定相続分通りに相続登記がされている場合」についてです。上記で解説したように、相続登記を行う前提として一般には遺産分割協議を行います。また、金融資産ならともかく、1つの不動産を数人が共有する状態はその後の処分や相続等も含めるとあまり好ましくないとされているので、相続人のうち1名が相続するとしてしまうケースがほとんどです。
しかし、遺産分割協議ができないなどの理由の有無を問わず、相続登記は相続人中の1名から、法定相続人全員の名義で、法定相続分通りに手続きが行えます。
例えば、相続人がXYZの3名いて、法律上の相続分(法定相続分と言います)が各3分の1ずつという場合。相続人中の1名であるXのみから相続登記が行えます。このとき「X3分の1、Y3分の1、Z3分の1」という形のみ登記が認められます。Xのみ(またはYのみ、Zのみ)を相続人とするような登記は遺産分割協議書が無いと認められません。
いずれにしても、このようにして相続登記を行うことは手続き上は適法であり、また他の相続人の同意なくできることなので、他の相続人からしたら「何でそんなことをするんだ」という気持ちになるのも無理がありません。
対処法としては、もしあなたが勝手に相続登記をされて不満に感じているとしたら、正式に遺産分割協議を行うことです。遺産分割協議は相続開始後何年経過していても行うことができます。勝手にされた相続登記の「持分」などに不満があるのであれば、相続人全員で遺産分割協議を行って、遺産分割協議書に基づく相続登記をやり直すことになります。
実際の相続登記のやり直し方は、すでにされている相続登記を全部抹消してしまうというケースもあったり、一部だけを更正することで足りるケースもあったりと事例によって異なりますから、司法書士にご相談ください。
つぎに、「2.遺言書の内容通りに相続登記がされている場合」についてです。例えば、故人の残した遺言書(それが自筆であろうと公正証書であろうと)に「A不動産はXに相続させる」とあれば、Xは他の相続人YZの同意なしに勝手に相続登記ができます。有効な遺言書があれば、相続人同志による遺産分割協議は不要ですから、このように相続登記されていることは何ら違法ではありません。
もちろん、遺言執行者がいれば、遺言執行者は遺言の内容を他の相続人に知らせる義務が有るので、何も知らされないうちに相続登記がされているのであれば、遺言執行者に対して通知義務違反程度は問題にできるかもしれませんが、すでになされた相続登記を無効にすることまではできません。遺言がある以上は原則的に遺言は何より優先されるためです。
対処法ですが、上記しましたように、遺言が優先するのでこれといった対処法はありません。しかし遺言の有効性を裁判で争うことは可能です。「単に遺言の内容が本人の真意かどうか疑わしい」というだけでは勝訴できませんので、明確な裏付け証拠を用意できる場合には遺言無効確認訴訟で争ってみる方法もあります。裁判で勝訴すれば遺産を回復することができるかもしれません。また、自分の遺留分が侵害されている場合には遺留分侵害額の金銭賠償をもとめることも対処法の1つでしょう。
事件性のあるケース
勝手に相続登記がされていて、なおかつ事件性が有る場合としては次のような場合が考えられます。
- 遺産分割前に特定の相続人の単独名義に相続登記がされている場合
- 遺言書も無いのに「1.」ような相続登記がされている場合
どちらのケースも書類を偽造したうえで相続登記を行ったと考えるのが一般です。なぜなら、「遺産分割協議書」も無く、または「遺言書」も無いのに特定の相続人の単独名義に相続登記を行うことは手続き上は不可能だからです。
ということは「遺産分割協議書」を偽造したか(またはそれとわからないような形で署名捺印させたか)、「遺言書」を偽造したかということになります。どちらにしても公正証書等原本不実記載罪(刑法157条)にあたりますので、刑法上の罪となり事件性があります。
対処法としては、いきなり刑事告訴という方法もありますが、目的は遺産の回復ですから、弁護士を代理人に立ててまずは先方と交渉を図ることも一考の余地があると思います。当事務所は複数の弁護士事務所とも提携していますのでこのような事案にも迅速に対応することが可能です。
勝手に相続登記がされていたら…
もし自分の知らないところで勝手に相続登記がされていたら、まずはそれに事件性があるか無いかを判断していくところから始まります。
確かに上記の「事件性がない場合」として分類したケースも、勝手にされた当事者としては気分を害することはあるかと思います。しかし、法律上許されないことかどうかとは次元の異なる問題なので、その点はっきり区別(割り切る)必要があるでしょう。その上で、遺産分割協議に持ち込むか、遺言無効確認訴訟を起こすかという問題となります。
反対に「事件性がある」として分類したケースは、刑事告訴も踏まえた形でその後の手続きを準備していく必要があります。司法書士はそのような事例において特定の相続人の代理人とはなれませんから、なるべく早く弁護士に依頼されるのが良いでしょう。
しかし、事件性があるのかないのかは一般の方には区別は難しいと思われます。自身の勝手な判断で行動すると、その後の手続きが頓挫してしまう可能性もあります。
またどちらのケースに該当するにしても、最終的に目指すところは自身の取り分、遺産の回復です。できれば自分自身の判断で話を進めるよりも、まずはこのような問題に詳しい相続手続きの専門家に相談し、最適な方法のアドバイスを受けるようにしましょう。

無料相談を受け付けています
私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。
このページでは、「【司法書士監修】勝手に相続登記がされることがあるのか」と題して、相続手続き専門の司法書士の立場から、様々な点から対処法も含めて多角的に解説しました。
この問題は専門家の立場からしても非常に難しい問題を含んでいます。ぜひそのような問題を解決する場面で私たち相続手続きの専門家をご活用いただければと思います。
相続登記の手続きの流れや、遺産分割協議のやり方、遺言無効確認訴訟の提起の仕方など、他にも様々な疑問があることと思います。
専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。
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東京司法書士会会員
令和4年度東京法務局長表彰受賞
簡裁訴訟代理等関係業務認定会員(法務大臣認定司法書士)
公益社団法人成年後見リーガルサポート東京支部会員
家庭裁判所「後見人・後見監督人候補者名簿」に登載済み
公益財団法人東京都中小企業振興公社「ワンストップ総合相談窓口」相談員
公益財団法人東京都中小企業振興公社「専門家派遣事業支援専門家」登録