【司法書士監修】相続放棄をした者の責任は令和5年度から変わる?
「相続放棄をすれば空き家の責任は免責されるのか?」当事務所に多い相談の一つです。あなたも同じ悩みを持っていますか?
令和3年4月21日の国会で「民法等の一部を改正する法律」が成立しました。これまで曖昧だった「相続放棄をした者の責任」について、より明確な規定に改正されます。改正法は令和5年4月1日より施行されます。
このページでは、創業20年の相続専門の司法書士事務所が、「相続放棄者の責任」について、現行の規定がどうなっているのか、どのような問題点があるのか、どのように改正されるかを詳しくお伝えします。
また、相続放棄と表裏一体の手続ともいえる、新しい「相続財産管理制度」や「所有者不明土地管理制度」についてもお伝えします。これから相続放棄を検討している方や、空き家・空地問題でお悩みの方には必ず役立つ情報です。
相続放棄をした者は「完全に免責される」とは限らない
相続放棄とは、故人の財産についての相続する権利を放棄することです。故人の財産とは現金・預金・不動産などの積極財産(プラス財産)だけでなく、債務・借金・負債などの消極財産(マイナス財産)も含みます。
相続放棄とは、積極財産と消極財産の全部を放棄することを言います。ですから、相続放棄をすれば遺産についてはすべて免責されるだろうというのが一般的な理解のされ方だと思います。
確かに、消極財産(借金等)については相続放棄をすることにより免責されます。
しかし、積極財産(不動産等)については必ずしも免責されるわけではなく、管理責任は負い続けることになります。現行の民法第940条1項で次のように規定されています。
第940条第1項 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。電子政府の総合窓口|e-Gov
相続放棄した者も「管理責任」は負い続ける…
相続放棄をすれば、故人の借金などを相続することはなくなり、債務については完全に免責されます。
しかし、故人の現金や不動産については、物理的にその物自体は存在しているわけですから、たとえ相続放棄をしたとしても物が消滅するわけではありません。
ですから、物は残り、あとは誰がそれを保存(管理)するのかという問題になるのです。この点は、現行の法律でも改正法でも変わりません。
現在の法律における相続放棄した者の「管理責任」
上でお伝えした現行の民法940条1項によりますと、相続放棄をしてもその者は相続財産の管理義務を継続して負うことになります。
例えば第一順位の相続人Aが相続放棄をした場合、これによって相続人の資格を取得することになる第二順位の相続人Bが相続財産の管理を始めることができるまで、その財産の管理を継続しなければなりません。
現在の法律の問題点は、いつまで「管理責任」を負うのか分からない点
現行の法律の問題点は次の2つです。
相続人が全員放棄したらいつまで「管理責任」を負うのか?
上の具体例でお伝えした通り、現在の法律は「第一順位の相続人Aは、第二順位の相続人Bが相続財産を管理を始めることができるまでは管理を継続しなければならない」と定めているだけです。
しかしたとえば、法定相続人の全員が相続放棄をして、次順位の相続人が存在しない場合(いわゆる相続人不存在のケース)に、いったいいつまで管理責任を負い続けるのかは明らかではありません。
これまで管理に一切関与していなかった人も「管理責任」を負うのか?
また、相続放棄をした者が、これまで管理に一切関与していなかった場合、その何ら関係ないと思われる相続財産についても「管理責任」を負うのか、現在の法律では不明確です。
さらに、そもそも相続放棄者が相続財産を把握していない場合(不知の財産)にまで、相続財産の管理責任を負うのかも明らかではありません。現時点ではもっぱら解釈にゆだねられているといって良いでしょう。
そこで、現行の民法第940条第1項を改正し、①相続放棄をした者の負う義務の性質と発生要件、②義務の内容と終期、③義務を免れるための方策などを整理したものとするべきであるという提案があり、今回の改正に至りました。
改正された「相続放棄をした者の責任」はかなり明確に
政府が現行の民法第940条第1項を改正して、相続放棄をした放棄者の義務について明確な規定を置こうとした背景には、東日本大震災で露呈した所有者不明の土地問題があります。
所有者不明の土地問題は、震災の復興事業を遅れさせる大きな原因の一つになったと指摘されています
改正法|民法第940条第1項はこう変わった
改正された民法第940条第1項は次のようになります(施行日は令和5年4月1日)。
それでは改正法のポイントや問題点をお伝えします。
「現に占有している」場合だけ責任がある
現行法は、相続の放棄をした者は一律に管理責任を継続して負うものと規定しています。
しかし、そもそも相続開始時点で遺産を管理していない者に、相続放棄をしたことをきっかけに管理責任を負わせるのは実際上無理があります。
そこで、改正法では「相続財産に属する財産を現に占有している相続放棄者」だけ責任を継続して負わせることにしています。そして、占有を開始した以上、その財産を他の相続人や相続財産清算人に引き渡すまでは保存する義務を負わせるものです。
相続放棄をした者にすべて管理責任を負わせている現行法よりも、「現に占有している」相続放棄者に限定して責任を負わせている新法の方が、内容として軽くなったと言えます。
具体例で考えてみると…
例えば、第一順位の相続人Aが相続財産に属する土地を占有して管理していたが、相続放棄をした後、これによって相続人となった第二順位の相続人B(Bはこの土地について一切管理していない)が続いて相続放棄をしたという事例において、誰がこの不動産の責任を負うのか。
この場合、「相続財産に属する財産を占有している相続放棄者」はAです。したがって、Aが責任を継続して負い、Bは管理したことのない土地についての責任は一切負わないことになります。
しかし、Aが相続放棄をした後、すでにAもこの不動産を管理していないのであれば、AもBも責任は負わないことになるのではないかと思われます。
相続放棄をした者は「管理義務」から「保存義務」へ
責任の内容ですが、改正法では「その財産を保存しなければならない」としています。
現行法では「管理を継続しなければならない」となっています。
つまり改正前は「管理義務」であったものが、改正後は「保存義務」となるわけです。
しかしながら、「管理義務」と「保存義務」には実質的な違いはあまり無いように思われます。
ところで、この「保存義務」の具体的な内容については次の2つの説があります。
説の分類 | 説の内容 |
1、積極的義務を負うとする説 | ①相続財産を滅失させ、又は損傷する行為をしてはならない ②相続財産の価値を維持するために必要な行為をしなければならない |
2、消極的義務を負うのみとする説 | ①は上記と同じだが、②の義務までは負わず、相続財産を積極的に害さなければそれで足りる |
たとえば、相続財産に属する土地があり、相続放棄をした者がこの土地を占有していたという場合。「1」の説によれば、相続放棄の後、次順位の相続人に引き渡す前にその土地の管理を放棄したときは、義務違反を問われる可能性があります。
これに対して「2」の説によれば、そのような義務は負わないため、その土地の管理を放棄してその土地から立ち去ったとしても、義務違反を問われることはないものと考えられます。どちらの説で解釈するべきかは現時点では不明です。
責任は「次の順位の相続人」に対して負う(対外的な責任ではない)
なお、このような保存義務は誰に対して負うのでしょうか。改正法では、相続財産を保存する義務の相手方は、相続放棄によってあらたに相続人となった次順位の相続人、あるいは相続財産清算人となっています。
しかし、相続財産法人になっただけでは、故人の財産はどうにもなりません。そこで、故人の財産を実際に管理したり処分したりする者を、家庭裁判所は選任します。これが「相続財産管理人(改正法では相続財産清算人)」です。
相続財産管理人は、利害関係人や検察官の請求によって選任されます。相続財産管理人の選任の請求をするには原則として予納金(相続財産管理人に支払う報酬金額等に充当される金額で少なくとも数十万円)が必要です。一部の例外を除いてほとんどの場合、弁護士が相続財産管理人に選任されています。
いずれにしても、責任を負うのはあくまで主に相続人の間の話であり、社会との関係におけるような対外的なものではありません。
ただし、土地工作物の占有者の責任(民法第717条の規定によって、民法上、第三者に対して不法行為による損害賠償責任を負う可能性は否定できません。したがって、思わぬ損害賠償請求を受けないように最低限の管理は必須となるでしょう。
責任の程度には特段の変更はない模様
また、注意義務の程度(責任のレベル)は現行法と同じく「自己の財産におけるのと同一の注意」をもってすれば足りるものとしています。
相続放棄によって相続財産は「自己の財産」ではなく既に他人の財産となっていることから、注意義務の程度としては「善良なる管理者の注意(善管注意義務とも言います)」を要するとの考え方もありますが、改正法は現行法と同じにしています。
この意味においては、改正によって責任が重くなる訳でも軽くなる訳でもありません。
相続放棄をした者の負う「義務の終期」が明確に
それでは相続放棄をした者は、いつまで保存義務を負うのでしょうか。改正法の中で「相続人又は相続財産清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間」としています。
これらの者に引き渡せば、それ以後は相続人又は相続財産清算人が保存義務を継続することができますから、引き渡しのときに保存義務が終了します。
現行法でもこのように解釈されていますので、改正により明文化するということです。
義務を免れるための手段として「供託」はつかえるのか
相続放棄をした者は、相続財産を引き渡すまで、相続財産の保存義務を負うことになります。
しかし、次順位の相続人が財産の引き渡しを拒んだ場合には、相続放棄者は保存義務から免れず、過度な負担になるのではないかとの指摘もあります。
そこで、次順位の相続人が財産の引き渡しを拒んだ場合は、民法上の受領拒絶・受領不能にあたるとして、相続放棄者は民法第494条1項を理由として、目的物を供託することにより保存義務を終了させるできると解釈します。
しかし、そもそも不動産は、お金や株式と違って、これ自体を供託することはできないため、裁判所の許可を得たうえで競売に付し、その代金を供託することができるとされます(民法第497条)。
ところが、そもそも誰も相続したがらない物件が、裁判所の競売で売れるはずもなく、事実上は、相続放棄者がそのまま保存し続けなければならないことになるような気もします。したがって、供託という方法はあまり現実的ではないと考えます。
一番の問題は「全員が相続放棄をした」ケース|新制度が発足
法定相続人の全員が相続の放棄をした相続財産の中に不動産があり、その不動産が管理不全状態に陥っていて第三者に害悪を及ぼしている場合に、誰が責任を負うのかという問題があります。
法改正の過程(法制審議会)では、「相続放棄者の全員」または「最後に相続放棄をした者」に、民法第952条の相続財産の管理人の選任請求義務を負わせるべきとの指摘もあったようです。
しかし、相続財産管理人の選任請求をするには予納金(相続財産管理人に支払う報酬金額等に充当される金額で少なくとも数十万円)が必要です。
相続放棄者に相続財産管理人の選任請求義務を課すと、相続放棄をしたにもかかわらず、結局、相続による不利益を負担させられてしまうことになります。
したがって、相続放棄された結果、管理のされていない土地が第三者に害悪を及ぼしている場合は、相続放棄をした者に管理義務を負わせるのではなく、「別の制度」を適用することにより、土地の適切な管理を図るべきだと提案されています。
この「別の制度」としては主に2つ制度があります。施行時期は令和5年4月1日からです。
「所有者不明土地(建物)管理人」に管理だけしてもらう方法|所有者不明土地(建物)管理制度
「所有者不明土地(建物)管理制度」を利用することにより、所有者が不明の土地(建物)問題を解決しようという試みです。まったく新しい制度になります。
このような場合に、土地を管理する必要が生じた場合には、現行法では、不在者財産管理制度(民法第25条)や相続財産管理制度(民法第952条)が活用されています。
しかし、これらの制度における管理人の選任の申立てを裁判所にする際に、管理人の報酬を含む管理費用を賄うために、予納金の納付が求められているのが実情です。
このような事情から、土地の管理が必要な状態になっているにもかかわらず、予納金の負担を負うことができないことを理由に管理人の選任の申立てを断念して、結局、土地が管理されずに放置されている問題があります。
そこで、今回の改正で、不在者財産管理制度や相続財産管理制度とは異なる、利害関係人の利益にも配慮しながら所有者不明の土地の円滑で適正な管理を実現するための新たな財産管理制度を創設することを提案していて、これが所有者不明土地(建物)管理制度です。
この制度は民法第264条の2~第264条の8に新たに設けられ、令和5年4月1日から施行されます。
「所有者が不明」とは、例えば、所有者が死亡して戸籍等を調査しても相続人が判明しない場合や、判明した相続人全員が相続放棄をした場合なども含まれるとしています。
このような場合、利害関係人の裁判所への申し立てにより、裁判所は土地(建物)管理人を選任して、この土地(建物)管理人に管理を命ずる処分をするという流れになります。。
利害関係の中には、当該土地の近隣所有者や開発業者、国や地方公共団体も含まれるようです。
申立てを行う裁判所は、土地・建物の所在地を管轄する地方裁判所(非訴法第90条1項)となります。
*管轄が「地方裁判所」となるため、申立書のみの作成も含めて、こちらの手続は当事務所でのお取り扱いはございません。
*本制度を利用する場合も、管理費用(管理のために必要となる費用)や管理人報酬の為の費用として、事例に応じた予納金を納付する必要がある点にご注意ください。
「相続財産管理人」に管理だけしてもらう方法|相続財産管理制度
すでにお伝えしましたように、法定相続人がいない相続財産や、法定相続人の全員が相続の放棄をした相続財産は、相続人のあることが明らかでないものとして、法律上当然に相続財産法人が成立します(民法第951条)。
不思議な感じがするかもしれません…。
そして、このような相続財産に属する財産には、土地だけでなく、建物や動産も含まれますが、相続人がいなくなる結果としてこれらが放置されて腐敗・荒廃し、周辺に悪影響を及ぼすこともあります。
このような場合、現行法では民法951条以下に規程する相続財産管理制度がありますが、相続財産の清算・処分を目的とするものであるため、手続きが長期に渡りコストもかかることから、相続財産を適切に管理しようとしても、この制度を利用することができない場合があるとの批判があります。
そこで、相続財産を適切に管理することができる仕組みを整備するために「保存だけを目的とする相続財産管理制度」が創設されました。
この制度により選ばれる相続財産管理人の職務は、相続財産の保全を図ることにあるので、その権限は保存行為に限定されると考えられます。従来の相続財産管理人のように清算・処分の権利は原則としてありません。
しかし、相続人のあることが明らかでないという状態においては、相続財産は最終的には清算されるべきとも言えますから、選ばれた相続財産管理人は、清算を目的とする相続財産清算人の選任の申立てが別途できるとしています。
現行法では、相続財産管理人は清算・処分を目的として選ばれる類型しかなかったものを、改正法では、保存行為のみを目的とする相続財産管理人をまず選任することもでき、その後状況を見て、清算手続きへ移行させることも可能という段階的な仕組みを提案しています。
この制度は民法第897条の2に新たに設けられ、令和5年4月1日から施行されます。
解決案の提示|相続放棄をした者が管理責任を免責されるには…
相続放棄をした者の管理責任については、確かに改正はされましたが、これまで民法の条文からは曖昧で法曹の解釈に委ねられていたような部分を明文化する内容で、特に大きな変更は無いと考えられます。
しかし、相続放棄した相続人の管理責任を免責する手段としては、いままで相続財産の最終処分を目的とする「相続財産管理制度」しかなかったものが、上でお伝えしたような最終処分を目的としない「管理だけしてもらう」2つの方法が新設されたことで、相続人の選択肢は増えたと言えるでしょう。
いずれにしても、現時点では改正法は施行されていませんから、現行法にもとづいて問題を解決していくしか方法はありません。
実際に当事務所で扱った事例などを別のページで解説しています。あなたの問題の解決に役立つ部分もあると思います。もしよろしければお読みください。
■【解決事例】相続放棄したら空き家はどうなるのか?(空き家法から読み解く)
できれば自分自身の判断で話を進めるよりも、まずはこのような問題に詳しい相続手続きの専門家に相談し、最適な方法のアドバイスを受けるようにしましょう。
さいごに|いまなら無料相談が受けられます
私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。オンラインにより全国対応をしています。
このページでは、「【司法書士監修】相続放棄をした者の責任は令和5年度から変わる?」と題して、相続手続き専門の司法書士の立場から、まさに今あなたが困っていることについて、知っておくべきことを解説しました。
このページでお伝えしたかったことは次の3点です。
- 相続放棄者は→不動産を現に占有している場合だけ管理責任を負うことに
- 管理責任は→次の相続人か相続財産清算人に引き渡せば免責されることが明文化
- 従来の相続人不存在の手続は→新しい制度の創設も含めて大幅に改正
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