【司法書士監修】遺言書が2通あったらどうなるか?

2023年11月10日

封筒が2通
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故人が亡くなった後に遺言書が2通発見された場合、相続人はどちらの内容にもとづいて相続手続きを行えばよいのでしょうか。

この問題は、法律上とても難しい問題を含んでいる場合もあるため、相続人の独断で任意に選んだ遺言書にもとづいて相続手続きを行うことは大変に危険な行為です。必ず、相続手続きの専門家のアドバイスやサポートを得た上で判断すべきです。

しかし、大まかにどうするべきか、どうなるのかを知っておきたいという事情もあるかと思います。そこで、このページでは原則的にどのように処理されるのか、そしてその原則が適用されるにはどのような要件をクリアすればよいのかを解説します。

また、過去の裁判例を事例として4つご紹介いたします。ご自身の問題の解決にお役立ていただけたらと思います。

大原則|後から書かれた遺言書が有効

大原則は、日付の異なる遺言書が2通ある場合、その内容が抵触するのであれば(抵触とは衝突、つまり矛盾する内容という意味です)、後から書かれた遺言書が有効と扱われます。

遺言は何回も書き直せますし、1通しか作成できない、という決まりもありません。そのため、2通に限らず複数枚発見されることも珍しくないわけですが、何枚あっても、内容が抵触する部分については、後から書かれた遺言書、つまり日付の新しいものが有効となります。

先の遺言と後の遺言で内容が抵触する部分についてのみ、後の遺言内容を有効とする趣旨ですから、抵触しない部分については、前の遺言の内容が有効のままです。後の遺言によって先の遺言がすべて書き換えられるというものではありません。書き換えられるのは内容が抵触する部分に限定されます。詳しいことは後に事例で検討します。

なお、当然のことながら、前の遺言と後の遺言で作成者(遺言者)は同一人物でなければなりません。例えば父が先に作成した遺言と抵触するような内容の遺言を後日母が作成したとしても、それぞれは別々の遺言として考えるだけです。先に作成された父の遺言を、後日母の作成した遺言で撤回する(取り消す)ようなことはできません。

また、2通の遺言書が自筆証書遺言でも公正証書遺言でも、内容が抵触していいれば後に作成された内容が有効となります。イメージとしては公正証書遺言の方が効力が強いような気もしますが、決してそのようなことはありません。

たとえば、先の遺言が公正証書遺言で、後の遺言が自筆証書遺言の場合、内容が抵触しているのであれば、後の自筆証書遺言が有効となります。2通を単純に効力で比較した場合、どちらが格上ということはなく、単に日付の新しいものが有効というだけです。

【民法1023条(前の遺言と後の遺言との抵触等)】
前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。

大原則が適用されるために必要なこと|要件とは

上記の大原則の結論は、「後の遺言が有効になる」でした。しかし、当然にこの結論となるのではありません。大原則が適用されるために必要な要件があります。それは次の2つです。

  1. 後に作成された遺言書について法律上の形式が整っていること
  2. 後に作成された遺言書が実体上有効であること

この2つ要件を充たして、はじめて後の遺言が有効となります。1つでも要件がクリアできなければ、先の遺言が有効のままです。それでは、要件を1つずつ解説します。

まず、「1.後に作成された遺言書について法律上の形式が整っていること」です。そもそも遺言書は民法の定める厳格な方式に沿って作成されたものでなければ、無効です。

たとえば、自署により作られた自筆証書遺言であれば、遺言者自身が遺言書の全文・日付・氏名を手書きして、押印をしなければなりません(民法第968条)。自筆証書遺言の作り方については、別のページで詳しく紹介していますから、興味のある方はお読みください。

■遺言を残すとき最初に読むページ

また、公正証書遺言は、遺言の趣旨を遺言者本人が公証人に述べ、これを公証人が公正証書として作成したものでなければなりません(民法第969条)。公正証書遺言の作り方についても、別のページで詳しく紹介していますから、興味のある方はお読みください。

■公正証書遺言の作成サポート

いずれにしても、後の遺言書に書かれた実質的な内容がどうであるかを判断する前に、まず形式的な要件をクリアしていなければ、その時点で後の遺言は無効ですから、先の遺言に基づく相続手続きを行うことになります。

2つ目の要件は、「2.後に作成された遺言書が実体上有効であること」です。形式的に有効であることを確認できたら、次に実質的に有効であるかを検討します。形式が整っている場合でも、実体上の理由から遺言が無効と判断されることもあります。

以下に遺言が無効となる一例を列挙します(いずれも裁判等で争わないと結論がでないことが多いため詳しくはお問い合わせください)。

実体上遺言が無効とされる場合 具体例
1、遺言能力を欠く者がした遺言 ・15歳未満の未成年者がした遺言(民法第961条)
・成年被後見人が事理を弁識する能力を回復しないときにされた遺言(民法第973条)
2、公序良俗に反する遺言 ・不倫相手に対する遺贈(最判昭和61年11月20日)
3、実行不可能な遺言 ・遺言書作成後に対象物が滅失した場合
4、内容が特定できない遺言 ・遺言の内容が不明瞭で不明確な場合で、相続人らが努力してもなお特定できない場合

事例・過去の裁判例で検討

それでは次に、具体的な事例や過去の裁判例で、遺言書が2通あった場合の問題を考察してみます。「ケース1」は典型的な具体例を取り上げます。「ケース2」から「ケース4」は実際の裁判例を簡略化して説明します。

ケース1|典型的な事例|前後で内容が抵触する場合

前述しましたが、日付の異なる前後の遺言書が2通あり、その内容が抵触する場合は、抵触する部分に限って後の遺言の内容が有効となります。抵触しない部分については、先の遺言は有効のままです。例えば以下のケースです。

この2通の遺言書で、内容が抵触する部分は、それぞれの遺言書の「1.」に関する部分です。私の自宅不動産をAにもCにも相続させるという内容は前後矛盾しています。ですから、後の遺言内容を有効と扱って、自宅不動産はCが相続することになります。

それに対して、先の遺言の「2.」の認知に関することについては、後の遺言で特に何も書かれていませんのでそのまま有効となります。もちろん後の遺言で「先の遺言の「2.」については撤回する」と書かれていれば、認知に関する内容も無効となります。

ケース2|前後の内容があまりにかけはなれている場合

ケース2からケース4は実際の過去の裁判例です。いずれも特殊なケースですから、ご自分の場合に、この結論がそのまま当てはまるとは考えないように注意してください。

先の遺言は公正証書遺言です。後の遺言は自筆証書遺言です。内容が抵触するものでしたが、先の遺言と後の遺言であまりにかけはなれた内容である為、争いになったという事例です。

平成27年に自筆証書遺言の無効確認の訴えが提起されています。この裁判は、遺言を有効としたい被告側に立証責任があります。つまり、訴えられた側で自筆証書遺言が有効なものであると証拠を挙げなければならないという意味です。

しかし、この裁判で被告は遺言書の筆跡が本人に間違いないことを証明できませんでした。また、遺言書に押印されている印が本人のものに間違いないということも証明できませんでした。証明できなかったため、この自筆証書遺言は本人が書いたものではないことになります。

その一方で、平成17年度の公正証書遺言は本人に意思に基づいて作成されたことは明らかであることが認定された為、この内容とあまりにかけはなれた平成20年の遺言は本人の意思によるものとは認められないとして、先の遺言である公正証書遺言の方を有効としました(東京地判平成27年10月22日)。

つまり、上に説明した「大原則が適用されるために必要な要件」を充たしていなかったため、後の遺言が有効とはならなかったという裁判例です。

ケース3|2通の遺言書がどちらも無効とされた事例

遺言書が2通ある場合、後の遺言が有効となるのが大原則ですが、こちらの事例は2通両方が無効と判断されたケースです。

先の遺言は自筆証書遺言です。後の遺言は公正証書遺言です。内容は抵触するものでした。公正証書遺言の作成のやり方に法律上の方式違反があって、争いになったという事例です。

公正証書遺言では、遺言書が遺言の趣旨を口で伝えなければなりません。しかし、このケースでは、本人は公証人からの問いかけに頷くだけで、一度も声を発することはなかったという事です。これでは法律上の形式的な要件をクリアしているとは言えないとして、平成22年の公正証書遺言は無効と確認されました。

そうであれば、平成21年の遺言が有効となりそうですが、この裁判では自筆証書遺言も無効であると判断されました。なぜなら、自筆証書遺言の作成の経緯や保管状態がかなり特殊だったためです。

具体的には、遺言者は平成21年に遺言者の兄弟の家を訪れ、数通の自筆証書遺言を作成したとのことです。しかし、不出来なものばかりであったのでその1通だけを残して他はすべてその場で破り捨てました。遺言者は、残された1通を自宅に持ち帰るわけでもなく、兄弟に保管を依頼するわけでもなく、そのまま立ち去りました。その後、公正証書遺言の作成に至ったという事情です。

そうなりますと、公正証書遺言作成の時点においては、もはや既に作成した自筆証書遺言を自分の最終の意思とする考えは喪失していたと思われます。したがって、自筆証書遺言も無効とするという裁判例です(東京高判平成27年8月27日)。

結局どちらの遺言書も無効ですから、遺言は存在しないものとして、故人の遺産は相続人の協議により分割しなければなりません。

ケース4|2通の遺言書が同じ日付の場合

遺言書が2通ある場合、後の遺言が有効となるのが大原則ですが、前後を判断できない場合はどうなるのでしょうか。2通の遺言書が同じ日付で、内容が抵触するケースです。

 

「2通の自筆証書遺言が作成された場合は、遺言書の記載全体に照らして遺言者の真意を探求すべきところ、遺言書の文言が必ずしも明確でないときは、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況なども考慮した上で遺言者の真意を探求し、その趣旨を確定すべきである(東京高判平成14年8月29日)」が判例の立場です。

つまり、事実の問題として先後はあるわけですから、諸般の事情によって先後を決めて、大原則の通りに後の遺言を有効とするという立場です。

しかし、遺言書内容やその他の一切の事情を考慮しても、どうしても2通の遺言書の先後を決められないこともあります。

「そこで、この場合の取扱はもっぱら学説に委ねられており、(中略)、①2通の遺言書の先後が同時に矛盾する意思表示がされたものとして抵触する部分はともに無効とする説、②抵触する部分も共に有効として一方を執行し他方に対して賠償すべきだとする説(中略)、前説が通説(「遺言書作成遺言執行実務マニュアル|新日本法規|編集東京弁護士会法友全期会」より)」とされているようです。

結局、2通の遺言書の先後が決められないときは、どちらの遺言書も無効として、遺言は存在しないものとし、故人の遺産は相続人の協議(遺産分割協議)によって分けることになります。

解決案の提示|遺言書が2通あったら…

遺言書が2通あった場合には、上に挙げたような様々な問題が生じます。誰が見ても明らかに判断できることもありますが、むしろ判断できないケースの方が圧倒的に多いのが実情です。

どちらが有効か明らかであれば(当事者間に争いがなければ)、裁判を起こすこともなく、有効な遺言書にもとづいてすみやかに相続手続きを行う必要があります。

明らかでなければ、明らかにするよう当事者が努力をしなければなりません。それは話合いなのか裁判なのかは事情にもよりますが、放置して自然に問題が解決するものではありません。

また、発見された自筆証書遺言については家庭裁判所で検認手続きを行うことが必要ですので、この点も注意が必要です。

できれば自分自身の判断で話を進めるよりも、まずはこのような問題に詳しい相続手続きの専門家に相談し、最適な方法のアドバイスを受けるようにしましょう。

ご相談お待ちしております! 左|司法書士 今健一  右|司法書士 齋藤遊

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私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。

このページでは、「遺言書が2通あったらどうなるか?」についてお話ししました。

遺言書が2通あった場合に、簡単に解決できない様々な問題がある点はお分かりいただけたでしょうか。ぜひそのような問題を解決する場面で私たち相続手続きの専門家をご活用いただければと思います。

自筆証書遺言の検認の手続きの流れや、費用はいくら位かかるのか、相続手続きにかかる費用や、どの位の期間で完了するのか、遺言無効確認の訴え、遺言有効確認の訴えの申立手続の詳細について等、他にも様々な疑問があることと思います。

専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。

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