自筆証書遺言の保管制度のすべて|最新版【司法書士監修】
平成31年に約40年ぶりとなる相続法大改正の法案が可決されました。令和元年7月より順次制度が実施されています。大改正と呼ばれているのは決して大げさではなく、その改正・新設項目は多岐に渡っています。
今回は、「自筆証書遺言の保管制度」について取り上げます。遺言の作成を検討されている方には興味深い制度だと思います。
新しい制度にはつい手を出したくなりますが、すぐに利用してよいものなのでしょうか。そして簡単に利用できる手続きなのでしょうか。このページでは「自筆証書遺言の保管制度」の詳細を手軽にそして網羅的に知ることができる内容になっています。法務省の最新データを基に作成しました。
自筆証書遺言書の保管制度とは|施行日
自筆証書遺言の保管制度は、新たに創設された制度です。この制度を簡単に言えば、自筆証書遺言(自分で手書きで書いた遺言書)を法務局に預けることができるというものです。
保管の申請手続きを行うことによって法務局に預けことができるようになるだけで、必ず預けなければならない訳ではありません。従前どおり、自宅等に保管しておいても何ら違法ではありません。従来通り自宅等に自筆の遺言書を保管しても問題ありません。
この制度の施行日(法律が適用される日)は、令和2年7月10日からです。すでに制度はスタートしていますからさっそく利用することができます。
なお、後述しますが、保管をするには事前に法務局で予約をする必要があります。
自筆証書遺言書の保管制度が創設された経緯
従来、自筆証書遺言の最大の欠点は、次の3点にあると指摘されてきました。
2、保管場所・保管者の定めがない
3、偽造・変造・隠匿のおそれがある
これらの欠点を補う役目を果たすのが、今回新設された自筆証書遺言の保管制度です。
例えば公正証書遺言は、公証役場で原本を保管し、平成元年以降に作された公正証書遺言であれば、遺言検索システムによりその存否等の照会ができます。今回新設された自筆証書遺言の保管制度は、法務局で原本を保管し、存否等の照会も可能ですから、その限りでは公正証書遺言と同様の効果を期待できます。
また、自筆証書遺言は、遺言書作成後の紛失や隠匿・変造のおそれを指摘されており、安全面を考慮すると推奨できるものではありませんでした。
さらに、相続人による遺産分割が終了した後に遺言書が発見されるなどすると、相続人間に深刻な紛争を生じさせることもあり、公的機関による自筆証書遺言の確実な保管と、相続人による遺言書の有無や内容確認の方策が待望されていました。
そこで、民法の相続法の改正に合わせる形で、保管法(法務局における遺言書の保管等に関する法律)が制定されるに至りました。それでは次の項目では自筆証書遺言の保管制度のポイントを解説します。
自筆証書遺言の保管制度のポイント
まずは遺言書保管制度のポイントを3つだけ紹介します。あまり細かい説明までは必要ない方は、ポイントだけお読みください。
ポイントで説明した内容の詳細についてはページを最後までお読みいただければ理解できるように解説しています。
ポイント1|保管は義務ではない
遺言者は、法務局において、自筆で作成した遺言書の保管を申請することができるようになりました。自筆による遺言書を法務局に保管するか否かは遺言者の自由ですから、もちろん保管しないという選択肢もあります。
ポイント2|相続人は証明書の交付請求ができる
遺言者が死亡して相続が開始したら、遺言者の相続人等は法務局で保管されている遺言書の情報が記載された証明書(遺言書情報証明書)の交付請求ができます。実際の相続手続きはこの証明書を使って行うことになります。
ポイント3|民法が定める検認が不要になる
自筆で作成された遺言書は、遺言者の死後に、裁判所において民法が定める検認という手続きが必要になるのが原則です。しかし、遺言書が法務局に保管されている場合、検認の手続きは不要となります。
検認は煩雑で時間を要する手続きですから、この手続きが不要となることにより相続手続きを迅速に行うことが可能となります。
自筆証書遺言の保管の申請の流れ
それでは早速、自筆証書遺言の保管の申請手続きについて、順に解説します。
保管申請する自筆による遺言書の作成|うっかりミスを防ぐ
まずは、保管申請する遺言書を自分で作成する必要があります。公正証書遺言のように公証人が作るわけではなく、法務局が作成してくれるわけでもありません。
内容については自己の責任で作成することになります。文案や書き方について法務局でアドバイスを受けることもできません。法務局では遺言の内容についての審査はしません。もちろん遺言書は原本現物を預け入れます。
預ける遺言書は遺言者自身が書いた自筆証書遺言に限られます(ただし財産目録は遺言者自身が書いたものでなくワープロ・パソコン等で作成したものでもよい)。公正証書遺言書や秘密証書遺言書など他の様式のものを預けることはできません。
実際に預ける自筆証書遺言書は、法務省令で定める様式によって作成されたものに限られます。その様式とは以下の通りです(保管省令|別記第1号様式(第9条関係))。
遺言書の様式は厳守のこと
A4の任意の用紙を使って作成することになります。一般的なコピー用紙で問題ありません。遺言を残された相続人等がその後の手続をしやすいように、遺言書を何色か色分けして作成することも可能です。
しかし、遺言書情報証明書(後述)は白黒で発行・交付されるため、結果として相続人等は色分けを判別することは不可能です。ですから、色分けは無意味となりますので、全て一般的な白の用紙で作成することをお勧めします。
用紙の上下左右に一定の余白を設けます(上と右は5mm、左は20mm、下は10mm)。
また、数ページになってもホッチキス止めはしないでください。
その他の注意点は以下の通りです。
- 用紙は文字が明瞭に判読できる日本産業規格A列四番の紙とする。
- 縦置き又は横置きかを問わず、縦書き又は横書きかを問わない。
- 各ページにページ番号を記載すること。
- 片面のみに記載すること。
- 数枚にわたるときであっても、とじ合わせないこと。
- 様式中の破線は、必要な余白を示すものであり、記載することを要しない。
また、封筒は不要です。封に入れる必要はありませんし、預け入れる遺言書には封をしてはいけません。保管の申請があった際に、法務局で形式的に遺言書の内容を確認するためです(仮に封をしてしまったとしてもその場で開封すれば良いだけですが…)。根拠となる規定を挙げておきます。
前項の遺言書は、法務省令で定める様式に従って作成した無封のものでなければならない。
すでに作成した遺言書(本制度開始前に作成されたもの)でも保管してもらうことは可能です。しかし、作成した遺言書が上記の様式に合うものでなければなりません。
なお、遺言書に何をどのように書いたら分からないという方は、専門家のアドバイスを受けながらこの制度を利用すべきでしょう。あるいは、初めから公正証書遺言を利用することをお勧めします。
一般的に遺言書に記載することができる内容や注意点については、当事務所の別のページで詳しく解説します。今まで遺言書を書いたことがない方など、もしよろしければお読みください。
なお、法務省のホームページにも、簡単な書き方の例が示されています。参考までにリンクを貼っておきます。
■遺言書の様式の注意事項(法務省HP)
どこに預けるか|管轄の法務局を調べる
遺言書の保管に関する事務は、法務局が「遺言書保管所」として行います(保管法第2条)。そして法務局の職員が「遺言書保管官」として実際の事務を取り扱います(保管法第3条)。
つまり、遺言書を預ける方からすると、とにかく法務局に遺言書を預けることになるわけですが、どこの法務局でも良いというわけではありません。
自筆遺言書の作成者は、次の3つの中から保管する法務局を任意に選択できます(保管法第4条3項)。どれを選択しても構いません。
- 遺言者の住所地を管轄する法務局
- 遺言者の本籍地を管轄する法務局
- 遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局
法務局が保管するため、遺言書の隠匿・偽造・変造という問題は解決できそうです。注意すべき点は、全国にあるすべての法務局で遺言書の保管を受け付けているわけではないという点です。特定の法務局に限られます。
東京都では以下のように全部で5つの法務局になります。
取扱い法務局 | 管轄区域 |
東京法務局本庁 | 千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、台東区、墨田区、江東区、品川区、目黒区、大田区、世田谷区、渋谷区、杉並区、足立区、葛飾区、江戸川区、大島町、利島村、新島村、神津島村、三宅村、御蔵島村、小笠原村、八丈支庁の所轄区域 |
板橋出張所 | 中野区、豊島区、北区、荒川区、板橋区、練馬区 |
八王子支局 | 八王子市、立川市、昭島市、町田市、日野市、国分寺市、国立市、東大和市、武蔵村山市 |
府中支局 | 武蔵野市、三鷹市、府中市、調布市、小金井市、小平市、東村山市、狛江市、清瀬市、東久留米市、多摩市、稲城市、西東京市 |
西多摩支局 | 青梅市、福生市、羽村市、あきる野市、西多摩郡 |
例えば、遺言者の住所が東京都国分寺市で、本籍地が東京都江東区、所有する不動産の所在地が東京都清瀬市と言う場合。
遺言書を保管できる法務局は、八王子支局、東京法務局本庁、府中支局のいずれでも良いことになります。分かりやすいように以下の表にまとめました、
管轄法務局 | 結論 | ||
1.遺言者の住所 | 国分寺市 | 八王子支局 | 3つの管轄法務局の中から選択できる |
2.遺言者の本籍地 | 江東区 | 東京法務局本庁 | |
3.遺言者の所有する不動産の所在地 | 清瀬市 | 府中支局 |
その他の都道府県についての管轄の法務局は、法務省の以下のページからお調べください。参考までにリンクを貼ります。
■遺言書保管所管轄一覧(法務省HP)
遺言書の保管申請書を作る|添付書類の準備
自筆遺言書の保管に際しては、自筆の遺言書に添えて「保管申請書」も提出する必要があります(保管法第4条2項・同4項)。保管申請書は法務省のホームページよりダウンロードできます。
参考までに法務局のホームページのリンクを貼っておきます。また、申請書は法務局(遺言書保管所)窓口にもあります。
申請書の記載事項は次の通りです。
第一項の申請をしようとする遺言者は、法務省令で定めるところにより、遺言書に添えて、次に掲げる事項を記載した申請書を遺言書保管官に提出しなければならない。
一 遺言書に記載されている作成の年月日
二 遺言者の氏名、出生の年月日、住所及び本籍(外国人にあっては、国籍)
三 遺言書に次に掲げる者の記載があるときは、その氏名又は名称及び住所
イ 受遺者
ロ 民法第千六条第一項の規定により指定された遺言執行者
四 前三号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項
申請書の様式は以下のようになります(保管省令|別記第2号様式(10条関係))。参考までに画像を添付します。申請書はそれほど難しい内容ではありませんが、専門的な法律用語も使用されているため、人によっては遺言書自体の作成よりも難易度が高く感じられるかもしれません。
遺言書および添付書類の内容と申請書の内容が抵触する(食い違いがある)場合は、保管申請は却下されますから注意が必要です(保管政令2条7号)。
保管の申請書の作成は司法書士が代理で行うことができますので、代わって申請書を作成してほしい場合は司法書士に相談してください。
添付書類は少ないので意外にカンタン
また、申請書には、「遺言者の氏名、出生の年月日、住所及び本籍(外国人にあっては、国籍)」を証明する書類、その他法務省令で定める書類の添付が必要です(保管法第4条5項)。
一般的には、本籍の記載のある住民票(作成後3か月以内)を用意します。これの原本を返してほしい場合は、原本還付という手続きをとることができます(保管省令8条)。
遺言書が外国語で書かれている場合には、日本語による翻訳文もあわせて添付することになります。なお、相続人の調査や、遺産がどれだけあるかなどは、法務局は一切審査することはありません。ですから、例えば出生に遡るまでの戸籍謄本や、預金通帳の写し、残高証明書などは添付書類にはなりません。
2.保管申請書
3.住民票(本籍の記載あるもので3か月以内)
4.本人確認書類(後述)
5.手数料(後述)
法務局に保管の申請の予約をする
自筆証書遺言の保管の申請をするためには、管轄となる法務局に保管の申請の予約をしなければなりません。予約をしないで保管の申請をすることも理論上は可能ですが、長時間待つことになったり、その日に手続が行えない場合もあります。
予約を義務付ける法令は見当たらないように思うのですが、法務省は「予約は必須である」と公式ホームページで案内をしています。
予約の方法は3つあります。
- 法務局手続き案内予約サービス専用HPにおけるネット予約(24時間365日可)
- 法務局へ電話で予約(平日8:30~17:15)
- 法務局の窓口で予約(平日8:30~17:15)
予約に関する注意事項は以下の通りです(法務省の公式ホームページより抜粋)
- 予約は手続をされるご本人が行ってください。
- 予約を行うことができる期間は当日から30日先までです。
- 予約日の前々業務日の午前中まで予約することが可能です。例)7/13(月)の予約は,7/9(木)12:00まで予約可能。
- 当日の予約はできません。
保管の申請をする|自分で預けること
予約した日時に、遺言書を作成した本人が自ら法務局内にある遺言書保管窓口に出頭して行わなければなりません(保管法第4条6項)。弁護士や司法書士などの代理人が本人に代わって出頭を行うことはできません。
ですから、入院・療養中の方は、この制度の利用は困難と思われます。配偶者や親族の同席も認められない取り扱いのようです。
ですから外出が困難な方は、これまで通り、公証人に出張してもらう形で公正証書遺言を作成することをお勧めします。
保管の申請をする|窓口での本人確認
上記で説明したように、遺言書の保管は本人が自ら法務局に出頭して行う必要があります。法務局では、保管の申請人が本人であるかどうかの確認をします(保管法第5条)。
繰り返しになりますが、弁護士や司法書士など代理人が遺言者に代わって保管の出頭手続きをすることはできないのでご注意ください。
遺言書の保管の申請が、遺言者以外の者による場合には、当該申請は却下されます(保管令第2条)。また、遺言者自身が法務局に出頭しない場合も、申請は却下されます(保管例第2条)。
窓口の本人確認は、写真付きの公的身分証を提示して行います。たとえば、個人番号カード(マイナンバーカード)、運転免許証、運転経歴証明書、旅券、乗員手帳、在留カード、特別永住者証明書などです(保管省令第13条)。
有効期限内ものがいずれか1点あれば大丈夫です。保管の申請をする際は、写真付きの公的身分証を忘れずに携帯して下さい。
健康保険証など、写真付きでない公的書類は使用できませんので、マイナンバーカードの取得手続きを先に行うことをおすすめします。マイナンバーカードが作れないという事情がある方は、公正証書遺言の作成をお勧めします。公正証書遺言ではマイナンバーカードは不要です。
なお、窓口での本人確認については、本人の遺言能力までの審査は行わず、単に本人確認ができるかどうか、保管申請の意思があるかどうかという形式的なものに留まります。
遺言書保管官は、前条第一項の申請があった場合において、申請人に対し、法務省令で定めるところにより、当該申請人が本人であるかどうかの確認をするため、当該申請人を特定するために必要な氏名その他の法務省令で定める事項を示す書類の提示若しくは提出又はこれらの事項についての説明を求めるものとする。
保管の申請をする|保管の手数料は3900円
手数料は申請時に収入印紙で納付します。「手数料納付用紙」に収入印紙を貼付して、保管申請書等と一緒に提出します。ほとんどの法務局は建物内に印紙売り場があります。遺言書の保管の申請は、1通あたり3,900円です。
1年ごとに3,900円かかる、というものではありません。保管の申請の手続の際に3,900円を納付すれば、いわゆる毎月・毎年の「保管料」のような費用は一切かかりません。なお、「手数料納付用紙」は以下の様式となります(保管省令|別記第12号様式(第52条第1項関係))。
次の各号に掲げる者は、物価の状況のほか、当該各号に定める事務に要する実費を考慮して政令で定める額の手数料を納めなければならない。
一 遺言書の保管の申請をする者 遺言書の保管及び遺言書に係る情報の管理に関する事務
二 遺言書の閲覧を請求する者 遺言書の閲覧及びそのための体制の整備に関する事務
三 遺言書情報証明書又は遺言書保管事実証明書の交付を請求する者 遺言書情報証明書又は遺言書保管事実証明書の交付及びそのための体制の整備に関する事務
2 前項の手数料の納付は、収入印紙をもってしなければならない。
申請は登記手続きとは異なり、原則的に即日処理をすることになります。提出した書類に不備がない限り、下記で説明する「保管証」は保管申請をしたその日に交付されます。保管証を郵送で受け取ることも可能です(保管省例第16条)。その場合、保管の申請時に窓口で申し出るようにしてください。
保管証を受け取る
手続が終わると「保管証」が交付されます。この書面には、遺言者の氏名・出生の年月日・遺言書保管所の名称・保管番号が記載されています。
預けた遺言書の内容については一切記載されていません。つまり保管証からは遺言内容については知ることはできないことに注意してください。
保管申請の際に受領証のような書類も発行されませんし、控えのような遺言書のコピーが発行されることもありません。
保管した後に預けた遺言の内容を本人が確認したいという場合は、下記で解説する「閲覧請求」の制度を利用するしかありません。「
閲覧請求」の制度を利用しても、法務局内で見ることができるだけですから、現物のコピーを得ることは不可能となります。どのような遺言書を法務局に保管したのかが分かるように、保管の際にはあらかじめコピーを残しておくことをおすすめします。
この「保管証」は、権利証(登記識別情報)のようにとても重要な書類という訳ではありませんが、遺言書の閲覧、保管の申請の撤回、変更の届出をするときに「保管証」があると手続きがやりやすくなります。
また、相続開始後に相続人等が遺言書情報証明書の交付請求等をするときに役立ちます。保管証を紛失しても再発行はされません。
遺言書を法務局(遺言書保管所)に預けていることを家族に伝えるような場合は、保管証を利用すると便利でしょう。なお、「保管証」は以下の様式となります(保管省令|別記第3号様式(第15条第2項関係))。
保管のされ方
上で掲げたように法務局は遺言書の原本を預かります。原本の保管方法については、遺言書がプライバシー性の高い情報であることを考慮して、施錠可能な書棚等の設備を用いて保管すること等が予定されています。
また、遺言書に係る情報を「遺言書保管ファイル」という名称で、法務局のコンピューターシステムでも管理します(保管法第7条2項)。簡単に言うと、遺言書を画像データ化するという意味です。
保管している法務局が、災害によりデータを焼失した場合に備えて、複数の拠点で保管する等、データの保全を確保する方法も予定されているようです。保管期間は、死後50年~150年です(後述)。
さらに、遺言者が亡くなり相続が開始しても、相続人等は法務局に保管されている遺言書の原本を返却してもらうことはできません。そのような手続きは法律上ありません。
自筆証書遺言の保管制度のその他の注意事項
保管制度を利用するにあたり、知っておいた方が役立つ知識を整理しました。興味がある項目だけチェックしていただければ良いでしょう。
検認手続きが不要になる
検認手続きは、遺言書が死亡した後の手続ですから、遺言書を預ける時のポイントとは言えませんが、重要な事項なのでこちらで解説します。
公正証書遺言書以外の遺言書の保管者は、相続の開始を知った後は、遅滞なく家庭裁判所に遺言書を提出して、その検認を請求しなければなりません(民法1004条)。
検認手続は、遺言の有効無効を判断するのではなく、遺言書の存在を裁判所で明らかにすることにより、偽造や変造を防止するための手続きです。
公正証書遺言書は、公証役場で遺言書を保管しているため、偽造・変造のおそれはないため、検認手続きを行うことは不要です。
反対に、自筆証書遺言は原則的に検認手続が必要です。しかし自筆証書遺言の保管制度を利用した場合に限っては、法務局が遺言書を保管することになるため、偽造・変造のおそれはなくなりますから、検認が不要になります。
従来、自筆証書遺言を発見した相続人は、裁判所で検認手続きを行わなければならず、その負担と、これによる遺産分けの遅れなどの不利益を負っていたわけですが、保管制度を利用すればそのようなことはなくなります。
保管された遺言書は検認は不要ですが、法務局に保管されていない自筆遺言書については従来通り家庭裁判所で検認を行う必要がありますから注意しましょう。
何度も利用できるか?|回数の制限
この制度を利用できる回数について制限はありません。もともと遺言書は何回も書き換えができ、内容が抵触する部分については作成日が新しいものを有効と扱います。ですから、保管制度を複数回利用した場合も同様に考えることになります。
ただし、複数の遺言書を異なる法務局に分散して保管することはできません(保管法第3条3項かっこ書)。もし異なる法務局に保管申請をしようとした場合には、その申請は管轄違いの申請として却下されます(保管政令2条3号)。
ですから、すでに遺言書を法務局に預けているという場合は、最初に預けた法務局においてのみ、再度保管の申請が行えることになります。
最初に法務局に預けたときから、遺言者本人の住所や本籍に変更があり、当初預けた法務局とは別の法務局に遺言書を保管したい場合は、後で説明する「保管の申請の撤回」をした後でなければできないことになります。
保管している遺言の内容を変更するには?
すでに法務局に保管している遺言書の実質的な内容を変更することもできます。方法は2つありますが、必要な手数料は同じです。
- 保管の申請の撤回をして遺言書の返還を受けて、遺言書の内容を変更(または新たな遺言書を作成)してから、再度保管の申請をする
- 保管の申請の撤回をしないで、新たな遺言書の保管申請をする(同一の法務局に申請する場合のみ可能)
できるだけ「1」の方法が望ましいでしょう。保管の申請の撤回は費用も手間も掛かりません。
「2」の方法も悪くはないのですが、遺言書が何通も保管されている状態は健全とは言えません。遺言書が数通ある場合、作成日付の新しいものが有効となりますが、無用な問題を残さないためにも「1」の方法をお勧めします。
法務局はいつまで保管するのか?
遺言者本人が保管の撤回を申し出るまではいつまででも預かります。相続が開始した時に返還するという規定もありません。しかし、そうなると法務局は永遠に保管しなければならなくなってしまうため、次のような規定があります。
遺言書保管官は、第一項の規定による遺言書の保管をする場合において、遺言者の死亡の日(遺言者の生死が明らかでない場合にあっては、これに相当する日として政令で定める日)から相続に関する紛争を防止する必要があると認められる期間として政令で定める期間が経過した後は、これを廃棄することができる。
「遺言者の死亡の日から相続に関する紛争を防止する必要があると認められる期間」は、政令で別途定められるとあります。相続が開始してから大分時間が経ってから紛争が発生することもある為、この期間は相当長期間であることが要求されます。
また、「遺言者の死亡の日(遺言者の生死が明らかでない場合にあっては、これに相当する日として政令で定める日)」のカッコ書きの「遺言者の生死が明らかでない場合」も同様です。
①遺言書保管法第6条第5項(法第7条第3項において準用する場合を含む。)の遺言者の生死が明らかでない場合における遺言者の死亡の日に相当する日として政令で定める日は,遺言者の出生の日から起算して120年を経過した日となります(第5条第1項)。
②遺言書保管法第6条第5項(法第7条第3項において準用する場合を含む。 )の相続に関する紛争を防止する必要があると認められる期間として政令で定める期間は,遺言書については50年,遺言書に係る情報については150年となります(第5条第2項)。
遺言者の生死が不明な場合は①が適用になります。それ以外の一般的な相続の場合は②が適用になります。つまり、結論として一般的な相続の場合は、遺言者の死後50年間は遺言書の現物が保管されます。コンピューターで管理されている遺言書保管ファイルの情報は、150年間保管されます。
いずれにしても、上記期間の経過後に、法務局は保管している遺言書を破棄し、コンピューターで管理している遺言書データを消去することになります。
盲点|遺言者が生前に住所・氏名を変更した場合の手続き
遺言者は,遺言書が法務局に保管されている場合において、遺言者の住所・氏名・本籍(外国人にあっては国籍)に変更が生じたときは、速やかに、その旨を法務局に届出をする必要があります(保管令第3条1項)。遺言書の内容の変更ではなく、氏名や住所等の情報が変更した場合の手続きです。
この変更の届出は、実際に遺言書を保管している法務局だけではなく、どの法務局でも行うことができます(保管令第3条2項)。窓口に出向く必要もなく、郵送でも可能です。
また、遺言書に受遺者や遺言執行者の住所・氏名・名称を記載している場合に、これらの事項に変更があった場合も同様に届け出をする必要があります(保管令第3条1項)。変更については手数料はかかりません。
変更の届出書は法務省のホームページよりダウンロードできます。また、法務局(遺言書保管所)窓口で用紙を受け取ることもできます。
変更の届け出を怠った場合のペナルティに関する規定は見当たりません。しかし、遺言者の死後の相続手続きにおいて、法務局から一定の通知が届かないなど、遺言内容の実現が困難となる場合も想定され、変更の届出を行わない不利益は、結局自分自身(というか相続人等関係者)の不利益となります。
保管している遺言書を返してもらいたい場合|保管の申請の撤回
それでは次に、法務局に預けている遺言書の現物を返却してもらいたい場合の手続きを解説します。
撤回の申請は誰ができるのか
遺言作成者は、自分の預けた遺言書が保管されている法務局に対して、いつでもその保管の撤回(とりやめ)を申し出ることができます(保管法第8条1項)。
弁護士・司法書士などの代理人が代わってすることはできません。相続人等の関係者からもできません。遺言者本人が自ら出頭して行うことになります(保管法第8条3項)。
いつまで保管の撤回の申請ができるかについて明確な規定はありませんが、事の性質上、遺言者本人が死亡するまでならいつでもできると解されます。
保管の申請の撤回の手続き|流れ
初めに行った保管の申請の手続きと流れは同じです。以下の通りになります。
- 撤回書を作成する
- 撤回の予約をする
- 予約日時に出頭して撤回の申請をする(遺言書を返してもらう)
保管の申請の撤回の手続き|撤回書や添付書類・手数料
法務局の窓口に提出する撤回書を作成します。撤回書は法務省のホームページよりダウンロードできます。また、法務局(遺言書保管所)窓口で受け取ることもできます。
添付書類は特に必要ありません。ただし、保管の申請をした後に遺言者の氏名・住所等に変更が生じている場合には、その変更を証明する書面(戸籍謄本や住民票)を添付する必要があります。また、窓口では本人確認を行いますから、運転免許証等、顔写真付きの公的身分証明書を提示する必要があります。
遺言書の保管の申請の撤回には手数料はかかりません。ですから収入印紙を用意する必要はありません。
遺言書の撤回の申請をするには、事前に法務局に撤回の予約をする必要があります。撤回の申請ができるのは、遺言書の原本が保管されている法務局に対してのみです。
保管の撤回を申し出ると、法務局から遺言書が遺言者本人に返還されます(保管法第8条4項)。
死んでも遺言書は戻ってこない…
また、これ以外の場合に、遺言書が法務局より返還されるという手続きはありません。例えば、相続開始後に相続人から遺言書の返還を法務局に求めても、そもそもそのような手続きは保管法に規定されていないため、することはできません。
相続開始後に相続人が、保管されている遺言書の内容に基づく相続手続きを行いたい場合は、下記で説明する「遺言書情報証明書」を相続開始後に法務局に請求することにより可能となります(保管法第9条)。
保管の申請を撤回したら遺言は無効になるのか?
上記で説明したように、保管の撤回を申請すると遺言書の原本が返還されます。しかし、遺言書の効力とは関係がありません。つまり、保管の撤回をしても、遺言自体を撤回したわけではないため、遺言書自体は有効のままです。
法務局が保管しているから有効で、返還されたから無効になるという性質のものではありません。
遺言書の内容も完全になかった事(遺言自体を撤回)にしたければ、保管の撤回の申請をして、法務局から返却された遺言書原本を完全に破棄するのが良いでしょう。
遺言書の内容を確認するための手続き|遺言書の閲覧など
それでは次に、保管されている遺言書の内容等を、相続人等が確認するための、いわゆる照会制度について解説します。
大きく分けて次の3つの手続きがあります。順に解説します。
- 原本の閲覧請求
- 遺言書情報証明書
- 遺言書保管事実証明書
遺言書の閲覧の請求
遺言者は、自分の預けた遺言書が保管されている法務局において、いつでもその閲覧請求ができます(保管法第6条2項)。代理人が代わってすることはできませんので、本人が自ら出頭して行うことになります(保管法第6条4項)。
遺言者の生前に閲覧請求ができるのは、遺言作成者本人だけです。相続人や受遺者などが相続開始前に遺言書の閲覧請求を行うことはできません。
つまり、生前に相続人等が勝手に遺言書の内容を確かめようとしても方法がないという意味です。この点は非常にお問い合わせの多い点です。
閲覧を請求する場合は、「請求書」を法務局に提出します(保管法第6条3項、9条4項)。請求書は法務省のホームページよりダウンロードできます。また、法務局(遺言書保管所)窓口で受け取ることもできます。
添付書類は不要です。窓口では本人確認を行いますから、運転免許証等、顔写真付きの公的身分証明書を提示する必要があります。手数料は、遺言書の原本を閲覧する場合は、1回につき1,700円です。
なお、遺言者は,預けた法務局だけでなく、どの法務局でも、「遺言書保管ファイルに記録された事項」の閲覧の請求をすることができます(保管令第4条)。
法務局はこれを「モニターによる閲覧」と呼んでいますが、法務局のモニター(タブレット等)で閲覧することになります。
現物が保管されていない他の法務局で閲覧をしたい場合には、モニターによる閲覧請求を行うことになるでしょう。モニターによる閲覧の手数料は、1回につき1,400円となります。
相続人や受遺者は、相続開始後(遺言者が死亡した後)に遺言書の閲覧請求が可能になります(保管法第9条3項)。
繰り返しになりますが、遺言者の存命中に閲覧請求は認められません。閲覧請求は、遺言書が保管されている法務局で原本の閲覧をすることもできますし(保管法第9条3項)、その他の法務局でモニターによる閲覧をすることもできます(保管政令第9条)。
相続人や受遺者が閲覧請求をする場合には次のような添付書面が必要となります(保管省令第38条、同第34条)。手数料や手続きについては遺言者本人が行う場合と同様です。
- 法定相続情報一覧図の写し又は遺言者の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍)謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票(作成後3か月以内)
- 請求人の住民票(受遺者や遺言執行者が請求する場合)
- 請求人が法人であるときは、代表者事項証明書(作成後3か月以内)
- 法定代理人によって請求するときは、戸籍謄本その他のその資格を証明する書類(作成後3か月以内)
遺言書情報証明書の請求|相続手続きで使用する書面はこれ
相続人等が相続開始前に、保管されている遺言書の内容を知りたいとしても、その内容の確認を法務局に請求することはできません。
確かに、相続開始後(遺言者が死亡した後)に、上記で説明した閲覧請求をすることはできます。しかし、閲覧請求は単に法務局で閲覧ができるだけでのものであり、内容をじっくり検討したいという希望には答えられません。
そこで、一般的には相続人等は相続開始後に「遺言書情報証明書」を請求することになるでしょう(保管法第9条)。
遺言書情報証明書を請求する場合は、「遺言書情報証明書の交付請求書」を法務局に提出します(保管法9条4項)。交付請求書は法務省のホームページよりダウンロードできます。また、法務局(遺言書保管所)窓口で受け取ることもできます。収入印紙で手数料を納付します。遺言書情報証明書の手数料は、1通1,400円となります。
なお、添付書類が必要となります。遺言書情報証明書は誰でも請求できるわけではありません。
添付書類は多く、面倒
遺言者と特定の身分関係等がある方に限って請求が可能です。ですから、遺言者との身分関係を証明する書面の添付が必要となります。具体的には次のような書面の添付が必要です(保管省令第34条)。
- 法定相続情報一覧図の写し又は遺言者の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍)謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票(作成後3か月以内)
- 請求人の住民票(受遺者や遺言執行者が請求する場合)
- 請求人が法人であるときは、代表者事項証明書(作成後3か月以内)
- 法定代理人によって請求するときは、戸籍謄本その他のその資格を証明する書類(作成後3か月以内)
なお、例外的に上記「1」「2」「3」の添付書面が不要な場合もあります。それは遺言書を保管している旨の通知(関係遺言書保管通知)を法務局から受けた方が請求する場合です(保管省令第34条第2項)。この「通知制度」については後述します。
請求できるのは相続人らに限定
さて、具体的にどのような方が遺言書情報証明書を取得できるかについては、詳細な規定が設けられています(保管法第9条1項、保管政令第7条、保管政令第8条、保管省令第47条)。
法は、この取得請求権を有する者のことを「関係相続人等」と称しています。実際に問題となりそうな請求権者は次の通りです。例えば法令上、次に該当する方は取得請求が可能です。
- 遺言書の保管を申請した遺言者の相続人(相続欠格者、被廃除者、相続放棄した者を含みます)
- 受遺者
- 遺言で認知するとされた子
- 遺言で廃除する意思を表示された相続人
- 遺言で指定された遺言執行者
- 遺言で遺言執行者の指定を委託された第三者
現実的には、「1」や「2」または「5」からの請求がほとんどになると思われます。
遺言書情報証明書はどの法務局に請求しても構いません(保管法第9条2項)。実際に遺言書を保管している法務局に限りません。
窓口で請求する場合には、写真付きの公的身分証などで本人確認が行われますので身分証を携帯して下さい。郵送で請求することもできます。
遺言書情報証明書には次の事項が記載されます。
1.遺言書の画像情報
2.遺言書に記載されている作成の年月日
3.遺言者の氏名、出生の年月日、住所および本籍(外国人は国籍)
4.受遺者の氏名住所(遺言書に記載ある場合のみ)
5.遺言執行者の氏名住所(遺言書に記載ある場合のみ)
6.遺言書の保管を開始した年月日
7.遺言書が保管されている法務局および保管番号
実際にどのような様式で証明書が発行されるのかは法務省のHPに見本があります。この遺言書情報証明書は自筆遺言書に代わる書面として、不動産登記手続きや預貯金などの名義変更等の相続手続きに使用することができます。
遺言書の原本自体は本人が死亡しても返却されることはないので、遺言書情報証明書を遺言書の代わりに相続手続き等で使用していくことになります。
また、例えば相続人が複数いて、それぞれが遺言書に基づく相続手続きを行いたい場合は、相続人らが各人別々に遺言書情報証明書を取得することもできます。
なお、遺言書情報証明書を取得するためには、法定相続人全員を調査して、交付請求書に記載する必要がありますから、収集すべき戸籍謄本等の通数はかなりの通数になることも考えられます。
交付請求書を自分で作成することや戸籍謄本等の収集に不安がある方は、相続専門の司法書士にご相談ください。
遺言書保管事実証明書|保管の有無だけ検索
相続開始後(遺言者が死亡した後)であれば、誰でも、法務局に対して「遺言書保管事実証明書」の請求をすることにより、故人が自筆証書遺言書を保管しているか否かの確認をすることができます(保管法第10条)。簡単に言えば、遺言書の検索制度のようなものと言えます。遺言者の生存中はできません。
上記で説明した「遺言書情報証明書」を請求すれば、遺言の内容まで知ることができますが、請求権者が限定されています。それに対して「遺言書保管事実証明書」は誰でも請求ができます。
しかし、遺言書保管事実証明書では保管の有無だけ(保管された遺言書が有るか無いか)を知ることができ、遺言の内容は知ることができません。
また、(少しややこしいのですが)、遺言書保管事実証明書は、請求者に関係のある遺言書が保管されているか否かが明らかになるだけです。
上に列挙した「関係相続人等」が請求すれば、保管の有無を正確に知ることができます。ところが、「関係相続人等」以外の方が請求しても、保管の有無を正確に知ることはできません。
たとえば、現実に法務局に遺言書が保管されていても、請求者が「関係相続人等」以外の方であれば、遺言書は保管されていない旨の遺言書保管事実証明書が交付されます。
つまり、遺言書保管事実証明書は誰でも請求できるとは言うものの、請求者自身が遺言書・遺言者と何ら関係のない者であるときは、常に「(あなたに関係のある遺言書は)保管されていない」という証明書が発行されるのです。
遺言者の相続人であれば、保管されている遺言書の内容が請求者に有利なものであろうと、不利なものであろうと(たとえば遺言書の文面で請求者に相続させるとは一言も書かれていないような場合)、「関係相続人等」であることには違いありませんから、遺言書保管事実証明書の交付を受けることができるでしょう。
第十条 何人も、遺言書保管官に対し、遺言書保管所における関係遺言書の保管の有無並びに当該関係遺言書が保管されている場合には遺言書保管ファイルに記録されている第七条第二項第二号(第四条第四項第一号に係る部分に限る。)及び第四号に掲げる事項を証明した書面(第十二条第一項第三号において「遺言書保管事実証明書」という。)の交付を請求することができる。
2 前条第二項及び第四項の規定は、前項の請求について準用する。
遺言書保管事実証明書を請求する場合は、「遺言書保管事実証明書の交付請求書」を法務局に提出します(保管法10条2項)。交付請求書は法務省のホームページよりダウンロードできます(2020年5月14日現在は準備中)。
また、法務局(遺言書保管所)窓口にも備え付けられる予定です。収入印紙で手数料を納付します。遺言書保管事実証明書の手数料は、1通800円です。
なお、添付書類が必要となります。具体的には次のような書面の添付が必要です(保管省令第44条)。
- 遺言者が死亡したことを証明する戸籍謄本(または除籍謄本)
- 相続人が請求する場合は、相続人であることを確認できる戸籍謄本
- 請求人の住民票
- 請求人が法人であるときは、代表者事項証明書(作成後3か月以内)
- 法定代理人によって請求するときは、戸籍謄本その他のその資格を証明する書類(作成後3か月以内)
先に説明した遺言書情報証明書を取得するためには、遺言者の出生に遡る連続した戸籍謄本や相続人全員の戸籍謄本などが必要となり、手続き的に複雑となりますが、こちらの遺言書保管事実証明書を取得するためにはそのような書類は不要となります。
遺言者が死亡したことがわかる戸籍謄本と、遺言者と請求者の関係がわかる戸籍謄本だけで良いのです。
遺言書保管事実証明書はどの法務局に請求しても構いません(保管法第10条2項)。実際に遺言書を保管している法務局に限りません。窓口で請求する場合には、写真付きの公的身分証などで本人確認が行われますので身分証を携帯して下さい。また、郵送による請求をすることもできます。
遺言書保管事実証明書には次の事項が記載されます。
1.関係遺言書の保管の有無
2.遺言書の作成年月日(関係遺言書が保管されている場合のみ)
3.遺言書が保管されている法務局および保管番号(関係遺言書が保管されている場合のみ)
4.請求人の資格、氏名又は名称及び住所
5.遺言者の氏名及び出生の年月日
遺言書保管事実証明書のサンプルが法務省により公表されています。
■見本1(請求人の資格が「相続人」で,遺言書が保管されている場合)
■見本2(請求人の資格が「相続人以外」で,遺言書が保管されていない場合)
繰り返しになりますが、この請求をしても遺言書の内容を知ることはできません。単に保管の有無が判明するだけです。遺言書保管情報証明書を取得してもこの書面では相続手続きを行うことはできません。
ですから、遺言書保管情報証明書を請求して、保管されていることが判明したら、その後に遺言書情報証明書の交付請求や遺言書の閲覧請求を行って遺言書の内容を確認しなければなりません。
なお、閲覧や遺言書情報証明書のように法務局の通知制度はありません(後述)。関係当事者が遺言書保管事実証明書の請求をしても、他の関係当事者に法務局から通知がされることはないという意味です。
法務局の通知|保管していることのお知らせ
法務局で遺言書を保管している場合、保管していることを相続人等に通知する場合があります。当然に通知されるわけではありません。どのような場合に法務局が通知をするのでしょうか。
閲覧の請求があった場合
遺言者本人が死亡後、関係相続人等から法務局に対して遺言書の閲覧請求があった場合、法務局はその他の相続人、受遺者、遺言で指定されている遺言執行者などに対して自筆証書遺言が保管されている旨の通知をします(保管法第9条5項、保管政令第9条第4項、保管省令第48条)。
これを法律上「関係遺言書保管通知」と言います。
その趣旨は、相続関係者に遺言書の存在を知らしめるためです。この通知を受領することによって、他の相続人や受遺者、遺言執行者は、遺言書の存在を認識することができ、円滑に遺言の内容を実現していくことが可能となります。
しかし相続人等の誰かが閲覧請求をしなければ、仮に相続が開始した(遺言者本人が死亡した)としてもこの通知は送付されません。その意味ではやや不完全な通知と言えます。
また、「関係遺言書保管通知」は、遺言の存在を通知するだけのものですから、遺言書の内容を知るためには別途、遺言書情報証明書を取得する必要があります。
遺言書情報証明書を発行した場合
遺言者本人が死亡後、関係相続人等から法務局に対して遺言書情報証明書の交付請求があり、遺言書情報証明書を発行した場合、法務局はその他の相続人、受遺者、遺言で指定されている遺言執行者などに対して自筆証書遺言が保管されている旨の通知をします(保管法第9条5項、保管省令第48条)。
その趣旨などは閲覧請求があった場合と同様です。この通知も閲覧請求があった場合と同じく「関係遺言書保管通知」と言います。
関係者に対して証明書を発行した場合にだけ通知がされるものです。
死亡時通知の申出をした場合
「関係遺言書保管通知」を補うものとして、もう1種類の通知制度があります。これを「死亡時の通知」と言います。
遺言者は遺言書の保管の申請の時に、「死亡時の通知の申出」をすることができます(希望する方だけ)。この申出をすると、遺言者の個人情報(保管申請の際に提供された遺言者の氏名・出生年月日・本籍・筆頭者の情報に限る)が法務局から戸籍担当部局に提供されます。
その後、遺言者本人が亡くなり「死亡届」が市区町村役場等に提出されると、戸籍担当部局から法務局宛に死亡の旨の情報が提供されるというシステムです。
通知の対象者は、相続人、受遺者、遺言執行者などのうち1名のみを指定することができます。1名しか指定できませんが、遺言書が保管されている旨を確実に伝えたい方を予め指定しておくことで大きな安心感が得られます。
もっと分かりやすく言うと、遺言者が亡くなれば、生前に予め指定した関係当事者の1名に法務局から通知がされるというシステムです。便利なシステムですが問題もあります。
死亡時通知の「落とし穴」とは?
この「死亡時通知」は、「推定相続人」を通知対象者として予め指定することが認められています。「推定相続人」とは、法律上の用語で、遺言書を預ける時点では遺言者本人の相続人になるだろうと思われる方という意味です。相続人候補者と言った方がイメージが湧きやすいでしょうか。
つまり、保管申請をした時点では相続人にあたると考えてその方を通知対象者に指定しても、実際に相続開始時点では相続人でなくなっているケースもあり、そうであっても一度通知対象者に指定されている以上は通知がされてしまう問題があります。
たとえば配偶者です。保管申請時に通知対象者として配偶者を指定したとします。配偶者は推定相続人にあたりますから、何も問題はありません。
しかしその後離婚した場合、配偶者はもはや相続人ではありません。ところが、生前に通知対象者として指定している以上は、もと配偶者に通知がされてしまうことになります。これにより、相続人でない方が遺言者の相続開始を知ることとなり、相続手続きを妨害される恐れも否定できません。
「死亡時通知の申出」は、以下の申請書に記載して行います(別記第9号様式(第19条第2項関係))。
法務局の通知制度のまとめ
法務局の通知制度をまとめると以下の表のようになります。
①関係遺言書保管通知 | ②死亡時通知 | ||
(1)通知がされる場合 | 関係相続人等が閲覧した場合のみ | 関係相続人等が遺言書情報証明書の交付を受けた場合のみ | 遺言者が死亡した場合は常に |
(2)保管申請時に特別な手続きが必要か | 不要 | 必要 | |
(3)誰に通知されるか | 関係相続人等の全員 | 予め指定した1名 | |
(4)通知制度の施行時期 | 令和2年7月10日 | 令和3年度実施済み |
考察|自筆証書遺言の保管制度を使ってもよいのか?
遺言書の作成を検討している方からすると、選択肢が増えましたから、非常にありがたい制度だと思います。自筆証書遺言は、偽造・変造・隠匿がされやすいことや、死後に発見されにくいことが難点とされています。しかし、保管制度を利用すればそのようなリスクは回避することが期待できます。
しかし、自筆証書遺言書の内容の有効性が争われた場合には、これを回避することは難しいと思われます。例えば、公正証書遺言であれば、公証人が作成時に遺言の内容について間違いない旨の意思確認を必ず行いますから、原則として遺言の有効性が問題となることはありません。
ところが、保管制度は自筆の遺言書を法務局が預かるだけの制度ですから、遺言の内容の確認は行いません(身分証と照合した上で預けたのが本人であるか否かの「本人確認」は行いますが…)。したがって、保管してくれるからと言って手放しで喜べるものではありません。
また、保管制度を利用すれば、死後不発見のリスクを回避しやすくなるとは言ったものの、常にそうだとも断言できません。
相続人等の関係者が、保管されている遺言書を発見するには、事前に保管の事実を本人から知らされているか、遺言書情報証明書や遺言書保管事実証明書の請求を積極的にしなければなりません(保管申請の際に「死亡時通知の申出」をしていれば別)。
■自筆証書遺言の保管制度と公正証書遺言はどちらがいいのか比較してみた
そのような意味において、自筆証書遺言の保管制度がより国民にとってより有益なものとなるためには、この制度の徹底周知にあると思います。
制度が浸透すれば、相続開始と同時に、まずは法務局に照会請求を申請しようという手続きが一般化しますので、その時に初めて本制度の利用価値が出てくるのではないでしょうか。
いずれにしても、遺言を検討されている方は、すぐに本制度の利用を検討する前に、このような問題に強い、相続手続きに特化した司法書士に相談されることをおすすめします。
当事務所が行っている「自筆証書遺言の保管サポート」については、こちらに詳しいご案内があります。もしよろしければお読みください。
無料相談を受け付けています
私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。
このページでは、「自筆遺言書の保管制度のすべて」についてお話ししました。
このページでお伝えしたかったことは次の3点です。
- 法務局で自筆の遺言書を保管してもらえる制度がすでに始まっています
- 比較的お元気で遺言書を自分で書くこと、自分で法務局に提出することができる方にお勧めです
- 遺言書の内容をどう書いていいかわからない、不安な方にはお勧めできません
法務局に保管するのは簡単ですが、遺言書を作成する以上はその内容が第一です。遺言作成の手続きをこれから始めるにはどうすればよいのか、どのような書類を集めればよいのか、何に気を付ければよいのか等々、様々な疑問があることと思います。
保管制度を利用するにしても、その他の方法(公正証書による遺言書)を利用するにしてもまずは専門家に相談してみることをお勧めします。
専門知識を有する私たちであれば、そのような疑問にお答えできます。
毎週土曜日に対面による無料相談を行っていますので、この機会にお気軽にお問い合わせください。
予約はお電話(代表042-324-0868)か、予約フォームより受け付けています。また、メールによる無料相談も行っているのでお気軽にご利用ください。ご利用お待ちしております。
東京司法書士会会員
令和4年度東京法務局長表彰受賞
簡裁訴訟代理等関係業務認定会員(法務大臣認定司法書士)
公益社団法人成年後見リーガルサポート東京支部会員
家庭裁判所「後見人・後見監督人候補者名簿」に登載済み
公益財団法人東京都中小企業振興公社「ワンストップ総合相談窓口」相談員
公益財団法人東京都中小企業振興公社「専門家派遣事業支援専門家」登録