【司法書士監修】認知症を理由に相続を放置するリスクと間違った対処法
「相続が発生して相続人の中に認知症の方が有る場合、相続の手続きは放置してもよいのか?」「相続人に認知症がある場合の正しい手続きや誤ったやり方とは?」は、当事務所に多い相談・質問の一つです。あなたも同じ悩みを持っていますか?
亡くなった方の相続人に認知症があった場合、他の相続人はどのようにすればよいのでしょうか。また法律上の正しい手続きをせずに完了してしまった相続手続きはどうなってしまうのでしょうか。
今回このページでは創業20年以上、地域随一の相続専門の司法書士事務所が「【司法書士監修】認知症を理由に相続を放置するリスクと間違った対処法」と題して、今まさに相続問題でお困りのあなたの疑問にお答えします。
このページを見れば『相続人の中に認知症の方がいる場合の特有の問題』や『民法などの法律改正により相続手続きを放置できない問題』について具体的な対策・対処方法や注意点ついて、これまでの疑問点がスッキリ解決すると思います。
このページは相続と認知症に関する法律問題で様々なサイトを検索・アクセス、調査し、不安になっているすべての相続人・その家族に向けたものです。ご参考になれば幸いです。
まずは結論|認知症は相続手続きを放置してよい理由にならない
被相続人(死亡した故人)の相続人の中に認知症の方(あるいは判断能力が不十分な方)がいたとしても、これを理由に相続手続きを放置して良いという法律はありません。
もし遺産(相続財産・資産)が多いなどで相続税が課税されるようでしたら、一定時期までに相続税の申告・納税が必要です。
また、一定の時期までに不動産の相続登記を済ませる必要も出てきます。さらに一定の時期までに遺産分割協議を済ませなければ特定の相続人が不利になってしまう場合もあります。
いずれにしても期限が決まっている相続の手続きに関して、認知症という事情は「期限に遅れてもいい」という理由にはなりません。
そもそも相続の手続きを放置することには様々なリスクがある
相続人の中に認知症の方がいるために相続手続きが進まない、あるいはそのまま放置されているということはよくあることではありますが、そもそも認知症の問題を抜きにしても、相続手続きを放置することには様々なリスクがあり、トラブルの要因となります。
たとえば代表的なものとして次のようなリスクが考えられます。
- 相続手続きを放置している間にさらに相続が開始して相続人が増えてしまうリスク
- 被相続人に多額の借金があった場合でも相続放棄はできなくなるリスク
- 相続手続きを放置している間にさらに認知症や行方不明者が出た場合にいっそう解決が困難となるリスク
- 相続した不動産を売却したいと思ってもすぐに売ることができないリスク
上記のリスクについてのより詳しい解説は、公式ホームページの別の記事にあります。もしよろしければ参考にしてください。
最近の民法などの改正により「新たなリスク」もある
ここ数年で相続に関連する民法や不動産登記法の法律が大きく改正されています。かなり重要な変更であるにも関わらず、一般的にはほとんど知られていないと言っても良いでしょう。
そしてその変更点の中に、相続手続きを放置することによって引き起こされる新たなリスクが潜んでいますので、そちらを解説します。
相続登記を放置すると10万円以下の罰則となる
正当な理由もなく死後に相続登記(土地や建物などの不動産の名義変更)を放置すると、10万円以下の過料の適用の対象となります。
(過料)第百六十四条 第三十六条、第三十七条第一項若しくは第二項、第四十二条、第四十七条第一項(第四十九条第二項において準用する場合を含む。)、第四十九条第一項、第三項若しくは第四項、第五十一条第一項から第四項まで、第五十七条、第五十八条第六項若しくは第七項、第七十六条の二第一項若しくは第二項又は第七十六条の三第四項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する。
(e-Gov|不動産登記法|令和6年4月1日施行)
この法律は令和6年4月1日から施行されますが、この日より前に相続が発生していた事例にも遡って適用がありますから注意が必要です。
10万円の罰則を受けないようにするために、相続登記をする以外にも方法はありますので安心してください。詳しくは公式ホームページの別の記事にあります。もしよろしければ参考にしてください。
遺産分割を放置すると取得できる遺産が少なくなることも
相続が開始してから10年を経過した後に遺産分割を行う場合は、相続人は特別受益や寄与分の主張ができなくなります。
その結果、相続が発生してから10年を経過した後に遺産分割を行う場合は、具体的には以下のいずれかのようになります。
- 法定相続分通りで遺産分割を行う
- 相続人全員の同意によって法定相続分とは異なる割合で遺産分割を行う
- 遺産分割調停や遺産分割審判では寄与分・特別受益は審理されず法定相続分となる
つまり、「相続人の話し合いの中で、寄与分や特別受益を主張し、結局同意が得られず、遺産調停を申し立てても、裁判所にも寄与分や特別受益は無視されるので、法定相続分通りに相続するしか方法がなくなる」という流れが今後は非常に増えるだろうと予想しています。
「遺産分割できるのが10年以内」というわけではなく、何の制約もなく遺産分割できるのは10年以内ということです。
このような不利益を回避するためには早めに遺産分割をすべきと言えます。
(期間経過後の遺産の分割における相続分)第九百四条の三 前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
一 相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。二 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
(e-Gov|民法)
この法律は令和5年4月1日から施行されています。そして令和5年4月1日より前に相続が発生しているケースにも遡って適用されます。
すでに相続の発生から10年経過してしまっているような場合の問題や、この制度に関する事項は公式ホームページの別の記事にまとめてあります。もしよろしければ参考にしてください。
認知症の相続人がいるときに法律を知らない人が「やりがちな間違い」
悪意があってのことではないと思いますが、認知症の相続人がいるケースで、法律を知らない方がうっかりやりがちな間違いを2つ、以下に説明いたします。
認知症の相続人を除いて遺産分割を話し合ってしまう
認知症の症状が進んでいて、例えば自分がどこにいるのかもよく分からない状態だったり、高齢で病院や施設で寝たきりの状態だったりすると、そもそも遺産分割の話ができませんので、認知症の相続人を除いて遺産分割の内容を決めてしまうということがあります。
しかしこれは法律上は無効です。
遺産分割協議は「相続人全員」が参加し、合意・同意が必要なものです。
一堂に会して話し合う必要は必ずしもありませんが、本人の意見を何も聞かないで関わることなく、ただ単にその方を除いて遺産分割協議を行うというのでは、遺産分割協議自体に効力がありません。したがって、適切な方法とは言えません。
家族が勝手に書類に署名や押印をしてしまう
認知症の相続人である本人の意思を確認することなく、その家族が勝手に遺産分割協議書や銀行の預金の解約書類に署名したり、本人の実印を押印してしまうことも、しばしば見受けられます。
もちろん本人が遺産分割の内容をきちんと理解した上で、その家族が署名の代筆や押印を代わって行った、という事情があれば、必ずしも無効とはなりません。
しかし、そもそも判断能力のない人がその家族に代筆や署名を頼めるわけはありませんし、法律上も判断能力がない人の「代理人」というのは家庭裁判所で一定の手続きを経ないと認められないことになっています。
そのため「文書偽造」などの刑法上の罪に抵触する可能性も出てくるため、注意しなければならないでしょう。
認知症の相続人がいるのに誤った方法で遺産分割をしてしまった場合は…
これも悪意があってのことではないと思いますが、認知症の相続人がいるケースで、法律を知らない方が、誤ったやり方で遺産分割を完了してしまったというケースはどうなるのでしょうか。
裁判で遺産分割の無効の主張が認められれば、完全に無効となる
遺産分割がすべて完了した後であっても、この後説明する「法律上の正しい方法」で遺産分割を行っていないのであれば、相続人はいつでも遺産分割の無効を主張することができます。
「認知症の相続人がいるのに正しい方式で遺産分割が行われなかった」ことを理由とする「遺産分割の無効」の主張は、必ずしも裁判でする必要はないのですが、通常は裁判で行われます。
もし裁判でこれが認められれば、すでに行われた遺産分割は無効となります(そもそも無効だったのですが…)。それだけに、認知症の相続人がいる場合の遺産分割は通常の遺産分割に比べて少し慎重に行う必要があると言えるでしょう。
だれも遺産分割の無効を主張しなければどうなるか
上でも説明しましたように、そもそもこの後説明する「法律上の正しい方法」で遺産分割を行っていないのであれば、その遺産分割は無効ですから、相続人はいつでも遺産分割の無効を主張することができます。
しかし、遺産分割後に相続人の誰からも無効の主張がない(あるいは事情を承知の上ではじめから誰も無効を主張するつもりはない)というのであれば、おかしな話ではありますが、すでに完了した相続手続き(相続登記や預金の解約・株式の手続きなど)は、手続された通りで話は終わり、となります。
もちろん相続人の誰がいつ意思を翻すか分かりませんから、やはり「法律上の正しい方法」で遺産分割をすべきと考えるのが普通だと思います。
認知症の相続人がいる場合の「法律上の正しい方法」とは
認知症の相続人がいるケースで、「法律上の正しい方法」とはどのような方法なのでしょうか。
認知症の相続人に後見人を立てる|成年後見制度の利用
その相続人がすでに医師より認知症の診断を受けているのであれば、家庭裁判所に後見開始の審判を申し立てて成年後見人を選任してもらいます。
裁判所で選ばれた成年後見人は、認知症の方の正式な代理人となりますから、その成年後見人(法律上の正式な代理人)とその他の相続人で遺産分割協議をすることになります。
申し立ては通常の場合、父・母・兄弟などの親族から行います。
ただし、本人の判断能力にも幅がありますから、主治医などの診断によって「成年後見人」が良いのか「保佐人」や「補助人」が良いかを決定してもらいます。
成年後見制度を利用するメリット
成年後見制度を利用するメリットは、何よりそれが「法律上の正しい方法」であるため、相続手続きを完全に有効に進めることができることです。
また、成年後見人をつけることは今回の相続手続きだけのために役立つのではなく、その後の自身のためにも役立ちます。たとえば認知症を理由に金融機関から口座が凍結されるようなことがあっても、成年後見人がいれば問題なく対応が可能です。
成年後見制度を利用するデメリット
デメリットしては、成年後見人が実際に選ばれるまでに時間がかかるというてんです。さらに、申し立ての際にも費用は掛かりますし、何より、成年後見人が選ばれてから、本人が亡くなるまでこの制度は継続しますので、その費用が負担できるのかという問題もあります。
申立ての際の費用は、申し立てる人の負担となります。手続きを司法書士に依頼する場合は、報酬が必要になります。おおむね10万円程度のところが多いですが、事務所によって料金は異なりますので注意が必要です。最寄りの事務所へ直接お問合わせください。
成年後見制度(法定後見や任意後見)に関する詳しい内容は、公式ホームページの別の記事で解説しています。参考にしてください。
遺産分割調停を申し立てる
成年後見制度をどうしても利用したくない、ということであれば家庭裁判所に遺産分割調停を申し立ててみるという方法も考えられます。
上で解説したように、原則として判断能力がない方については成年後見制度を利用する以外に現在の法律としては解決方法がないわけですし、家庭裁判所からもそのように説得されるはずです。
ただし、家庭裁判所としても成年後見制度の利用を強制するわけにもいきませんので、事情によっては、成年後見人の代わりに特別代理人を選任するということも可能性としては考えられます。この場合、必ず法定相続分通りで遺産分割は行われます。
結論|認知症を理由に相続手続きを放置することはできない
以上のように、認知症を理由に相続手続きを放置することはできないことがわかります。
そして、放置することによる危険性や、そのペナルティなどもご理解いただけたかと思います。
まだ正式に認知症と診断されていないのであれば、身近な家族が一番本人を理解されているでしょうから、まずは本人が今回の相続手続きをどこまで理解されているのか、このまま相続手続きを進めてよいのかという意思確認・説明をしてみることをお勧めします。
そもそも意思確認が難しい状態でしたら「法律上の正しい方法」である後見制度の利用は避けることはできません。
いずれにしても、まずは、専門知識を持った相続専門の司法書士や税理士、弁護士(法律事務所)にご相談されることをお勧めします。どの方法がおすすめというものではないので、それぞれの特徴を理解した上で、状況や経過に即したアドバイスが必要となります。
最後に|いまなら無料相談が受けられます
私たちは、遺産整理をはじめとする遺産相続の手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で20年以上に渡って運営、相続問題・相続に関連する業務に取り組んできました。オンラインにより全国対応をしています。
このページでは、「【司法書士監修】認知症を理由に相続を放置するリスクと間違った対処法」と題して、相続手続き専門の司法書士の立場から、まさに今あなたが困っていることについて、知っておくべきことを解説しました。
このページでお伝えしたかったポイントは次の3点です。
- 認知症を理由に相続手続きを放置することはできない
- 本人の意思確認ができないのに他の相続人が勝手に相続手続きはできない
- 「法律上の正しい方法」は成年後見人を選任すること
本ページで説明した遺産分割協議(遺産分割協議書の作成)の手続きや、その後の相続手続き(預貯金の解約や相続登記)、家庭裁判所への成年後見人の選任の申立てを速やかに行うためには専門的な知識が必須となります。
相続手続きは大変複雑で、成年後見制度を利用についてもわからない点は多いと思います。
個人の力では限界があるかもしれません。
ぜひそのような問題を解決する場面で私たち相続手続きの専門家をご活用・連絡いただければと思います。
なお、そもそも将来、自分の子どもたちにこのページで説明したような問題を負わせたくないとお考えであれば、遺言作成(自筆証書遺言書の保管制度や公正証書遺言)や生前贈与が有効な相続対策となりますので是非ご検討ください。
専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。また相続に関連する問題・相続税の申告に強い提携の税理士や弁護士もおりますので、全方向のサービス・サポート・代行・紹介が可能です。
いまなら毎週土曜日に面談(対面・非対面)による無料相談を受付しています。また無料相談は平日も随時実施しています。
お電話(予約専用ダイヤル042-324-0868)か、予約フォームより受け付けています。メールによる無料相談も行っております。いずれも無料ですが誠意をもって対応します。お気軽にご利用ください。
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