【司法書士監修】不明な共有者がいても不動産を処分できる法が成立
「不明な共有者がいる土地をどうすればいいか?」当事務所に寄せられる難しい相談の一つです。あなたも同じ悩みを持っていますか?
令和3年4月21日の国会で「民法等の一部を改正する法律」が成立しました。
この法律の中で、これまで難しいとされてきた、所在不明共有者との共有関係を解消する新たな方法が創設されました。
このページでは、今回成立した新しい法律の概略をいち早く解説します。また、新法以外の方法としてこれまで使われてきた代表的な方法の紹介と問題点も指摘します。
「所在不明共有者との共有関係を解消する新たな方法」の全貌はこれだ!
この新たな方法は、従来の「民法」という法律の中に新しい規定として追加されました。実際の手続きの細かい内容は「非訟事件手続法」という別の法律の中に追加されています。
それでは令和3年の国会で成立した「所在不明共有者との共有関係を解消する新たな方法」の内容について、相続手続きを専門とする当司法書士事務所が、法律に詳しくない方にも読みやすいように順に解説していきます。
「所在不明共有者との共有関係を解消する新たな方法」は2年内に始まる制度
まず「この新しい制度はいつから始まるのか?」です。
法律は令和3年4月21日に成立し、4月28日に公布されましたが、すぐにこの制度が始まるわけではありません。この法律の中に「公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」とあります。
つまり、具体的にいつから始まるかは現時点ではわかりませんが、2年内に始まるということは確かです。
おそらく令和5年の4月ごろではないかと予想しています。
「所在不明共有者との共有関係を解消する新たな方法」はなぜ作られたのか?
国はいま総力を挙げて「所有不明土地問題」を解消しようとしています。所有者が分からない土地が多数あることで、東日本大震災の復興が大幅に遅れてしまったことが直接のきっかけとされています。
そもそも所在不明共有者が存在することにより、売却処分もできず、その不動産は管理不全・塩漬け状態と言えます。新しい制度では他の共有者が所在不明共有者の持分を買い取るなどの方法により、不動産の活用を図ろうとするものです。
本来、共有関係を解消するには共有物分割請求訴訟を経るのが正しいのですが、共有者が特定できない場合はそもそも訴訟手続きの利用ができません。
新しい制度は、共有者が特定できなくとも裁判所の主導によりその持分の処分が可能となり、所有者不明土地問題の解決策として有効と期待されています。
いつの時点の共有状態に適用があるのか
制度が実際に始まるのは2年内ですから、遅くとも令和5年度までには開始するということですが、いつの時点の共有状態にこの法律が適用されるのでしょうか。
特にこの点に関する定めは置かれていません。
ですから、この法律が施行された後に生じた共有状態に適用されるのは当然として、それ以前の共有状態にも適用があると考えてよいでしょう。
つまり現時点で所在不明の共有者がいれば、この制度を利用できるという意味です。
「所在不明共有者との共有関係を解消する新たな方法」は2つある
今回新しくできた「所在不明共有者との共有関係を解消する方法」は、2つあります。あなたの目的に応じて2つの中から選択して利用することができます。では、その概略を簡単にお伝えします。
①所在不明共有者の持分だけを買い取りたい場合
共有者の中に所在不明の方がいる場合、他の共有者は裁判所に請求することにより、所在不明者の持分を買い取ることができます(民法第262条の2)。
買取金額は裁判所が定め、代金は「供託所(法務局)」に供託(お金を預ける)をします(非訟事件手続法第87条)。
この方法をお勧めするケースは以下のような場合です。単に共有関係を解消したいだけであれば、こちらの方法を選択することになります。
- 他の共有者が、所在不明の共有者しかいない場合
- 買取後、この不動産を売却する予定がない場合
②他の共有者の持分も含めて第三者へ売却したい場合
この方法は①のように所在不明共有者の持分を買い取るだけではなく、他に所在が分かる共有者もいる場合、その者の持分も含めて、共有者全員の権利を特定の第三者へ売却する方法です(民法第262条の3)。
この方法をお勧めするケースは以下のような場合です。共有関係を解消するだけでなく、この不動産の処分(売却など)まで行いたい場合はこちらの方法を選択します。
ちなみに裁判所は買主まで探しませんから、物件の購入希望者は自分で見つける必要があります。
- 他の共有者(所在が分かっている方)が、所在不明の共有者以外にもいる場合
- この不動産を売却する予定があり、他の共有者も同意している場合
「所在不明共有者との共有関係を解消する」手続きのイメージ
次にこの手続きを利用する場合の手順です。2つの方法があることは上記しましたが、どちらの場合も手続きの流れは同じです。大まかには次のようになります。
①申し立て(裁判所)
不動産の所在地を管轄する地方裁判所に「申立書」を提出します。申立書や添付書類の具体的な内容などはこれから定められる予定です。
②裁判所による公告(3箇月)
裁判所は、共有者から申し立てがあったことや、この申し立てに異議がある場合は一定の期間内に裁判所に届け出ることができる等の内容を公告します。
最低でも3か月の間は裁判所で公告をするため、裁判所へ申し立てをしてから共有関係が解消するまで短くても3か月はかかるということです。
実際問題、所在不明となっている方が裁判所の公告に気付いて、しかも異議を申し立てるということはほとんど考えられませんが、所在不明者の権利を保全するということで手続き上はこのようになっています。
③供託金の納付
無事に申し立てが認められた場合には、申立人に対し「供託金の納付通知」がされます。
供託金とは、本来は不明共有者に支払うべき「持分の買い取り代金」のことです。支払うといっても、所在不明の共有者はその金額を受け取ることはできませんから、国に預けるということです。
その金額や納付期限は裁判所が決定します。もし不服があれば即時抗告ができます(非訟事件手続法第87条第7項)。
④登記手続き
供託金を納付して、裁判が確定したら、裁判所から交付された書類等を使って登記申請(名義変更)を行います。具体的な登記手続きについては今後決まる予定です。
裁判所は登記手続きまではやってくれませんので、このような手続きに詳しい司法書士に依頼する必要があります。
ちなみに、2つ目の方法(「他の共有者の持分も含めて第三者へ売却したい場合」)は、裁判所の判決が確定してから2か月以内に、第三者へ処分した旨の登記手続きを行わなければなりません(非訟事件手続法第88条第3項)。
「所在不明共有者との共有関係を解消する」要件は厳しいのか?
この手続きを利用するための要件はそれほど厳しいものではありません。しかし、いくつかの条件はクリアしている必要はあります。
まずは「他の共有者が所在不明」であるということです。そして手続き上「利用できないケース」も法律で定められています。順に解説します。
「所在不明」とは具体的にどういうことか?
どのような状態を「所在不明」と呼ぶのかはこの法律の中には具体的に定められていません。国の資料では次のように述べられていますので、そのまま引用します。
また,共有者が法人である場合には,その本店及び主たる事務所が判明せず,かつ,代表者が存在しない又はその所在を知ることができないときに,「所有者の所在を知ることができない」ときに該当することを想定している。
所在を知ることができないかどうかの調査方法については,少なくとも,
①所有者が自然人である場合には,登記簿上及び住民票上の住所に居住していないかどうかを調査する(所有者が死亡している場合には,戸籍を調査して,その戸籍の調査で判明した相 続人の住民票を調査する)ことや,
②所有者が法人である場合には,イ)法人の登記簿上の所在地に本店又は主たる事務所がないことに加え,ロ)代表者が法人の登記簿上及 び住民票上の住所に居住していないか,法人の登記簿上の代表者が死亡して存在しないことを調査することが想定されるが,その他にどのような調査を行うのかや,その在り方については,その判断をどの機関が行うことになるのかを含め,引き続き検討する。
また,自然人である共有者が死亡しているが,戸籍を調査しても相続人が判明しない場合と戸籍の調査によって判明した相続人が全て相続放棄をした場合について,民法第951条以下の手続(この手続を経れば,特別縁故者がいない限り,他の共有者は持分を無償で取得することができる。民法第255条)を経ずに,ア及びイの制度を利用して有償で他の共有者の持分を取得することが可能とすることについては,特別縁故者が存在し得ることを念頭に,慎重に検討する。 民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案|法務省
単なる音信不通では「所在不明」とは呼べないのは明らかですが、このような要件を満たすかどうかは、専門家に調査を依頼するしか方法はないと思われます。
この制度を「利用できないケース」に注意
この新しい制度を「利用できないケース」も法律で定められたので注意が必要です。
第262条の2
第3項 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る)において、相続開始の時から10年を経過していないときには、裁判所は、第1項の裁判をすることができない。民法等の一部を改正する法律案|法務省
例えば、「所在不明の共有者」について住民票や戸籍の調査を進めていくうちに、すでに死亡していたことが判明したとします。その死亡の時からまだ10年を経過していない場合は、この手続きはできないという意味です。
このような場合、直ちに共有関係を解消したいのであれば、「所在不明の共有者」の相続人に対して遺産分割をするように促して、共有持分を相続することになった相続人と共有物の分割について話し合いをすべきことになります。
共有者が所在不明の場合「いままで」どうしていたか?
それでは、所在不明の共有者がいた場合、いままでどのように対処していたのでしょうか。方法は3つあります。
- 裁判所へ不在者財産管理人の選任申立の手続をする
- 裁判所へ失踪宣告の申立てをする
- とりあえず自分の持分だけ処分する
順に検討します。
「不在者財産管理人」は最も使われる方法
裁判所へ「不在者財産管理人の選任の申立(民法第25条)」という手続きを行う方法は、この3つの中では一番よく利用されている方法と言って良いでしょう。
他の共有者と言えども、勝手に不在者の持分を売却することは許されないため、不在者に代わってその財産を法律上管理する「不在者財産管理人」を裁判所に選任してもらいます。多くの場合、弁護士(事例によっては司法書士)が選任されます。
その後、裁判所の許可を得たうえで、不在者財産管理人が不在者の持分を第三者等へ売却していくという流れです。
「失踪宣告」は死んだものとみなしてしまう方法
2つ目の方法としては、裁判所へ「失踪宣告の申立(民法第30条)」という手続きを行う方法です。一般的には、この申立てを行う前に警察へ捜索願を出します。
「失踪宣告の申立」は、不明者の生存が確かめられる最後の時から7年経過していることが要件となります。そして、裁判所で「失踪宣告の申立」が認められると、最後の生存確認時から7年経過の時点で死亡したものとみなされます。
死亡したものとみなされることで、不明者について相続が開始しますので、不明者の相続人と共有物の分割について話し合うことができるようになります。
「自分の持分だけ処分」するとタダ同然の買い取り額に
不明共有者の問題を放置して、とりあえず自分の持分だけ処分してしまうという方法もあります。不動産業者の中には、このような「訳アリ物件」のみを専門に買い取るところもあります。
当然ながら、買い取り額は期待できません。なぜならその不動産業者も買取後は「不在者財産管理人」や「失踪宣告」の手続を利用して共有関係を解消する必要があり、その分の時間やコストが生じるためです。
「いままで」の方法の決定的な問題点とは
さて「いままで」は、上記の通り3つの方法により、不明共有者の問題を解決してきたわけですが、もちろんそれぞれに問題点があります。
順に検討します。
「不在者財産管理人」は費用がかかる
不在者財産管理人は裁判所から弁護士等が選任されますが、ボランティアではありませんので、財産管理をしてもらうためには費用が掛かります。
そこで不在者の財産を管理するためにかかる費用を「予納金」として納めることが原則として必要となります。
その金額は事例により異なりますが、数10万円から100万円程度まで幅があり、この「予納金」の金額が「不在者財産管理人」の手続きをためらわせる要因となっています。
「失踪宣告」は7年の失踪期間が必要
「失踪宣告の申立」の手続は、失踪期間が7年以上必要になります。ですから、例えば「失踪してからまだ3年しか経っていない」という場合は、あと4年待たないとこの手続きはできません。
つまり、いますぐ不動産を処分したい(共有関係を解消したい)場合は利用できないという不都合があるのです。
「買い取り業者への処分」は安値に…
単に共有関係を解消したいという目的であれば、買い取り業者にあなたの持分だけを買い取ってもらうのも方法の一つです。
しかし「持分のみの買い取り」は買取額が安値になることが多く、特に価値の高い不動産である場合は、あまりメリットが感じられません。
さいごに|いまなら無料相談が受けられます
私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。オンラインにより全国対応をしています。
このページでは、「【司法書士監修】不明な共有者がいても不動産を処分できる法が成立」と題して、相続手続き専門の司法書士の立場から、まさに今あなたが困っていることについて、知っておくべきことを解説しました。
このページでお伝えしたかったことは次の3点です。
- 2年内に「不明共有者の持分」を処分できるようになること。
- 方法は2つ。1つは「自分が買い取る」。もう1つは「自分の持分も含めて第三者に処分する」。
- 手続きは裁判所へ申立てが必要で、一定の金額を供託する必要があること。
「所在が不明であることの証明」や「裁判所への申立て」を行うためには専門的な知識が必須となります。ぜひそのような問題を解決する場面で私たち相続手続きの専門家をご活用いただければと思います。
専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。また相続問題に強い提携の税理士や弁護士もおりますので、全方向の対応が可能です。
いまなら毎週土曜日に面談(対面・非対面)による無料相談を実施しています。また無料相談は平日も随時実施しています。
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