【司法書士監修】夫婦の共同の遺言は有効か|無効な遺言の活用法
自分で書いた遺言書(自筆遺言書)は、法律上の要件をクリアしないと無効となります。今回は、夫婦が連名で書いた遺言書が有効か無効かについて取り上げます。そして、もし無効となった場合に、その無効な遺言に何か利用価値があるのか、その活用法についても考察します。
連名で遺言書を作成できるか|共同遺言の禁止
そもそも夫婦が氏名を併記するやり方(連名)で、遺言書を作成することが法律上認められるのでしょうか。
民法第975条
民法は、夫婦に限らず、2人以上の者が連名で遺言書を作成することを禁じています。以下にその根拠となる条文をそのまま挙げます。
遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。
これを「共同遺言の禁止」と言います。それでは、もっと具体的に、「共同遺言」とはどのような遺言書のことを指すのでしょうか。
禁止される共同遺言の種類とは
上に挙げたように、2人以上の者が同一の用紙を使って作成された遺言を「共同遺言」と呼ぶわけですが、「共同遺言」とは具体的に次の3種類を指すと解釈されています。
種類 | 具体例 | |
1 | 2人以上の者が同一の用紙を使用しているが、内容的には各々独立したもの(単純共同遺言) | 夫婦が1枚の紙に、それぞれの財産の処分に関する別々の遺言を書くケース |
2 | 2人以上の者が同一の用紙を使用して、お互いに遺贈しあう内容であるもの(双方的共同遺言) | 夫婦が1枚の紙に「先に死亡した者が他方に財産を相続させる」と書くケース |
3 | 2人以上の者が同一の用紙を使用して、お互いに相手の遺言を条件とするような内容であるもの(相関的共同遺言) | 夫婦が1枚の紙に、「夫の遺言が失効すれば妻の遺言も失効する」と書くケース |
この表の3つとも、共同遺言に該当するため、そもそもこのような遺言の作成は禁止されます。そして、もしすでに作成されていれば、その遺言は無効となります。
共同遺言が禁止されるワケ
共同遺言が禁止される理由はいくつかあります。上記の表の種類「1」の場合、夫婦が各々自由な意思に基づいて遺言ができなくなる恐れがあります。
遺言とはそもそも誰の影響も受けないで、自分の思った通りに内容を決めるべきものです。しかし、1枚の用紙を使って夫婦が遺言を書くとすると、最初に書いた人は問題がないとしても、2番目に書いた人は1番目に書かれた内容を見ることになりますから、当然その内容に影響を受けることになります。
また上記の表の種類「2」の場合、夫婦が同一の内容の遺言を書いて、最後に夫婦が連名で署名・捺印しているわけですが、その後この遺言を夫婦の片方から撤回できるのかについて問題が生じます。
民法1022条は、遺言者はいつでも何の理由もなく一度した遺言を撤回して、なかったことにできます。しかし、連名でなされた遺言の場合、片方から撤回できるのか、共同で撤回しなければいけないのか、民法に規定もなく問題が生じるのです。
また、同じく上記の表の「1」「2」「3」いずれの場合も、もし夫婦の一方の遺言が方式を満たさないなど無効事由がある場合に、他方の遺言については有効と扱ってよいのかという問題も生じ、法律関係が複雑になり、解決が困難です。
このような理由で、共同遺言は禁止されています。
ケース別|過去の代表的な裁判例など
上記のように、民法では共同遺言は禁止されていて、無効となります。しかし「共同遺言」にあたらなければ、禁止もされず、有効となるわけです。すでに共同遺言には3つの種類があると説明しましたが、そのどれにも該当しなければ「共同遺言」ではないわけですから、有効です。
そこで、「共同遺言」と言えるのかどうかが争われた過去の裁判例等を検討してみましょう(以下のケースにおいてAとBは夫婦とします)。
別々の遺言書が一体の文書として綴られているケース
4枚の用紙を綴って、1枚目から3枚目まではA名義で作成され、4枚目はB名義で作成されたものであるという事例です。4枚が一体となって閉じられているため、これを「同一の証書」と見れば、この遺言は民法第975条が禁止する共同遺言にあたり無効となります。
しかし、判例は、「同一の証書」であっても、それが容易に切り離すことができる場合には、共同遺言には該当しないとしています(最判平成5年10月19日)。
別々の遺言書が1つの封筒に入れられているケース
同一の証書に遺言が書かれているわけでもなく、たまたま同じ封筒に封入してあっただけですから、共同遺言には該当せず、有効です。判例ではありませんが当然の結論と言えます。
夫婦の一方に方式違反があるケース
同一の証書に2人の遺言が記載されているが、Aは氏名を自署しておらず、Aの部分については民法が定める要件を欠くことにより方式違反として無効とされるケースです。この場合、Aについては無効ですから、他方のBの単独遺言として有効に扱ってよいのかという問題です。
判例は、このケースも共同遺言として扱い、方式違反がない他方Bについても有効な遺言としては扱わないとしています(最判昭和56年9月11日)。
一見共同遺言ではあるが、実質的には単独遺言であるケース
同一の証書に連名で遺言が書かれているため、形式的には共同遺言となるものの、その内容に注目すると実質的には単独の遺言と評価できる場合は共同遺言とならず有効とする判例があります(東京高決昭和57.8.27)。
このケースは、AがBの知らない間に夫婦連名の遺言書を作成し(ただしBの事前の了解はある)、その内容がAの所有財産に関するもののみであった、というものでした。
そうしますと、遺言書にはBの名前はあるものの、Bの所有財産については何ら遺言は書かれていないわけですから、遺言書中、Bに関する記載は法律上の意味を持たないと考えられ、実質的にAによる単独遺言と評価できます。
つまり、この判例は「共同遺言」にあたるか否かについては、単に夫婦連名であるなどの形式的なことだけでなく、遺言の作成に至る経緯や遺言内容に踏み込んで実質的に判断すべきとしているのです。
解決案|夫婦で無効な遺言を作らないためには…
上記に挙げたように、確かに共同遺言に見えても、内容的に単独遺言と評価できれば有効となる可能性はあります。しかし、どちらかというと無効となる可能性が高いので、やはり夫婦は別々の遺言書を作成するべきでしょう。
夫婦がそろって遺言を作成しようと検討するケースのほとんどは、子供がいない場合と考えられます。その際、夫婦が別々に遺言を作成するのであれば、上記の表の種類「2」で示した、「先に亡くなったほうが他方に相続させる」」というスキームを実現することができます。
なお、遺言が相続問題の解決に役立つのか、とか、遺言を作成するのにかかる費用、遺言作成の具体的な手続きなど、遺言の作成に関してよくあるご質問については、別の記事がありますのでもしよろしければお読みください。
いずれにしても、まずはこのような相続の問題(遺産の作成)に強い、相続専門の司法書士等の専門家に一度相談されることをおすすめします。
解決案|無効な遺言を残された相続人はどうすれば良いのか…
遺言書は民法に定める方式を充足したものでなければなりません(要式行為)。方式の通りに作成されていなければ、その遺言は無効となります。
遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
では、無効な遺言を残された相続人はどうすればよいのでしょう。遺言のことは忘れて、原則通りに遺産分割をしなければならないのでしょうか。
死因贈与契約として有効か
死因贈与契約とは、贈与者(故人)の死亡を条件として効力が生じる贈与契約を言います。相続発生と同時に、契約した財産が受贈者(財産を譲り受ける人)に移ります。その意味では、死因贈与は遺贈(遺言で財産を譲り渡すこと)と似ているため、死因贈与は遺贈と法律上はほぼ同様の扱いとなります。
贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。
しかし、死因贈与と遺贈の大きく異なる点は、死因贈与は要式行為ではないという点です。ですから、贈与者(故人)と受贈者との間で贈与の合意さえあれば、契約書がなくても有効に成立します。この合意は明示(明らかなもの)でも、黙示(暗黙の了解)でも構いません。
したがって、たとえ遺言書としては無効と判断されても、故人に財産の贈与の意思があると遺言書中から認められて、なおかつ、受贈者にも財産を受け取る意思が別途認められれば、死因贈与契約が成立する可能性はあります。
ただし、受贈者が、相続が開始してはじめて遺言の内容を知ったというのでは契約は成立しません。できれば遺言作成時、遅くとも相続開始以前までには、故人と受贈者の間で、この財産の受け渡しについて共通認識があった必要があります。そうでなければ契約が成立しているとは言えないでしょう。
この点に関する最高裁判所の判例はありません。また、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所の判断も分かれているので、もし実際に裁判となった場合は、その事例ごとに判断されるでしょう(東京地裁昭和56年8月3日、大阪高裁昭和43年12月11日など)。
遺産をより多く相続するための資料として活用か
「全財産を譲る」と書かれた遺言書が方式を充足しないため無効となったとしても、「全財産を譲る」と書いてあるということは、よほど受遺者(財産を譲り受ける人)をひいきにしていたという証拠ですから、受遺者としては、これを相続において有利に活用することはできないか、が検討されます。
被相続人は生前において、Aに対し、その法定相続分をはるかにこえる農地その他の不動産を贈与し、自己の営んできた農業を自己と同居してともに農耕に従事してきたAに継がせる意思であったこと、日付記載を欠くため自筆遺言証書としては効力のない書面中に、全財産を抗告人に譲渡する旨の記載があることなど判示事情のもとにおいては、被相続人はAに対する生前贈与につき特別受益の持戻免除の意思を表示していたものと認めるのが相当である。
生前にAは法定相続分をはるかに超える農地等を贈与されているわけですから、原則として、相続が開始しても、遺産からは何も相続できません。なぜなら、相続の前渡しとして農地等を既に譲り受けていると考えられるためです。
しかし、無効となった遺言書中に「全財産を譲渡する」と書かれているため、故人としては、生前贈与で与えた農地等だけでなく、他の財産もAに与えたかったのではないかと推測されます。
そこで判例はAの主張を認め、その結果Aは生前贈与で取得した財産だけでなく、これに加えて遺産からも相続分の財産を取得できました。
判例は「生前贈与につき持戻免除の意思を表示していたものと認められる」という表現を使っています。「持ち戻し」については、関連する記事がこちらにありますので、もしよろしければお読みください。
【2019年最新版】相続法の改正|配偶者への贈与 持ち戻し免除
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私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。
このページでは、「夫婦の共同の遺言は有効か|無効な遺言の活用法」についてお話ししました。
共同遺言は原則的に無効ですが、場合によっては有効となる余地も少なからずあります。その場合、裁判は避けられないと思われます。趣旨はお分かりいただけたでしょうか。
また、そのようにならないために、生前に夫婦別々の遺言の作成を検討することも必要でしょう。
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