【司法書士監修】遺産分割調停と遺産分割審判|早わかり
相続人同士で話し合いによる遺産分け(遺産分割協議)がまとまらない場合、遺産分割調停や遺産分割審判(裁判)によるべきだということは、よく知られたことだと思います。
今回は、遺産分割調停と遺産分割審判の違いに焦点をあてて解説します。また、遺産分割調停と遺産分割審判の手続きがあるということを理解した上で、遺産分割協議が成立しない場合に、相続人はどういったことに注意をしなければならないかについても考察します。
そして最後に当事務所のサービス「相続人会議」についてご紹介いたします。
遺産分割調停と遺産分割審判のキホン
遺産分割調停とは家庭裁判所を使った遺産分けの解決方法です。そして、遺産分割調停もまた不調に終わった場合は、遺産分割審判で解決することになります。
まずは遺産分割調停と遺産分割審判に関するあれこれを比較してみました。どこの裁判所に申し立てるのか(管轄)、どのくらいの期間かかるのか、などよくご質問を受ける事項を中心に表にまとめました。
① 遺産分割調停 | ② 遺産分割審判 | |
(1) 管轄 | 相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者が合意した家庭裁判所 | 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所 |
(2) 申立費用 | 収入印紙1200円と切手代 | 収入印紙1200円と切手代 |
(3) 期日 | 5回くらいまで | 数回(調停より少ない) |
(4) 期間 | 1年以内に60%が終了 | 調停より短い |
(5) 内容面 | 融通が利く | 厳格な手続き |
(6) 審理 | まず調停委員がそれぞれに話を聞く。最終的に当事者の合意に基づき裁判官が決定する。 | 調停委員はいない。1人の裁判官がはじめから担当。相続人同士が同席し裁判官の指揮のもと審理が進行。 |
(7) 法定相続分を無視できるか | 相続人全員の合意があれば法定相続分と異なる割合でもOK | 原則として法定相続分通りに分割。 |
(8) 相続人の合意 | 必要 | 不要(裁判所が審判内容を決定するため必ずしも相続人の意向通りとはならない) |
(9) 不服申し立て | 調停で協議が不調となれば、調停不成立となり、調停を取下げない限り、審判へ移行する(移行に際して特別な申立ては不要) | 裁判所による審判の内容に不服があれば高等裁判所へ即時抗告が可能。さらにその後最高裁判所へ特別抗告も可能。 |
(10) 前提問題の解決 | 相続人全員の合意があれば可 | 不可(別途審判や訴訟を提起して解決する) |
(11) 付随問題の解決 | 相続人全員の合意があれば可 | 不可(審判の対象とはならないため別途訴訟を提起して解決する) |
一覧表だけでは分かりにくい点も多い為、以下に解説を加えます。
遺産分割調停・審判の管轄
遺産分割調停は、相手方のところへ攻めていく必要があります。ですから管轄は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所が原則です(1)。
これに対して遺産分割審判は、故人の最後の住所地の家庭裁判所で手続きをすることができます(1)。つまり、死亡時点で住所があった場所という意味です。
管轄の利便性からいうと、遺産分割審判の方が良いかもしれません。そのため初めから遺産分割審判の手続を選択する方もいますが、原則として、まずは裁判所の判断により遺産分割調停に付されることがほとんどです。
「まずは調停でじっくり話し合って下さい」という趣旨です。この場合、管轄も家庭裁判所の判断で、そのまま故人の最後の住所地で続行されることがあります(しかし原則通り、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所へ管轄を移される場合もあります)。
遺産分割調停・審判の申立費用
申立費用はどちらも同じです。申立書に1200円の収入印紙を貼付します(2)。さらに裁判所が指定する切手も必要な枚数だけ納めます。切手代は裁判所毎に異なるため、事前に問合せが必要です。
裁判所へ行く回数・終了までにかかる期間
遺産分割調停や審判の申立てをすると、裁判所に呼び出されます。これを期日(きじつ)と言います。遺産分割調停は、裁判所のデータによると全体の65%は5回までの期日が指定されるようです。つまり5回程度は裁判所へ出向く必要があるかもしれないことを認識しておきましょう(3)。
しかし、何回の期日が指定されるかはその内容にもよります。全体の25%は6~10回の期日が指定されていますし、ごく少数ですが21回以上の期日が指定されるケースも存在します。
期日は1ヶ月か2ヶ月に1回程度指定されます。裁判所は土日祝日は休みですから、期日は平日の日中です。
終了までにかかる期間ですが、遺産分割調停の60%は1年以内に終了しています(4)。逆に言えば、40%は1年以上かかっているということです。ごく少数ですが3年以上かかっているケースも存在します。
実際のデータは、裁判所の司法統計のページで確認することができます(上記のデータは平成30年度のものです)。ご参考までにリンクを掲げます。リンクページの「編分類名」は「家事事件編」を選択してください。調停に代理人を付けているか否かなど興味深いデータもあります。
http://www.courts.go.jp/app/sihotokei_jp/search|裁判所 司法統計
遺産分割審判の期日は遺産分割調停よりも少ないとされます(3)。期間も遺産分割調停よりも短いです(4)。ほとんどの事は遺産分割調停の中で主張されている為です。
遺産分割調停・審判の内容
遺産分割調停は相続人の合意を前提としています(8)。ですから、その内容もかなり融通が利きます(5)。遺産分割調停は、調停委員(裁判所から嘱託された民間人、例えば弁護士や元裁判官など)が当事者それぞれに話を聞きます(6)。対立する当事者が顔を合わせることは基本的にありません。
遺産分割調停の中で相続人全員の合意があれば、法定相続分とは異なる割合で相続することも可能です(7)。
しかし、遺産分割審判は、手続きのはじめから裁判官が通常の裁判と同様に進行しますので(6)、手続きは厳格です(5)。また、遺産分割審判では原則的に法定相続分通りで遺産を分けることになります(7)。
遺産分割審判では、相続人の合意は要件ではなく、合意もないのに審判が成立してしまいます(8)。そういう意味では審判は裁判と同じと言えます。もちろん遺産分割審判の中で和解が成立すれば、翻って遺産分割調停が成立したものとみなされて、調停調書が作成され手続きは終了となります。
遺産分割調停・審判に不服があるときは?
遺産分割調停が不調に終わった場合(分割案に合意できないと主張した場合)は、不服を申し立てるまでもなく、遺産分割審判に移行します。
ただし、その不調の原因が、以下で説明する前提問題にある場合は(10)、当然には遺産分割審判に移行せず、裁判所から遺産分割調停を取下げるように勧告されます。
そして、前提問題は別途訴訟手続きで解決し、再度遺産分割調停や遺産分割審判を申し立てるという解決方法もあります。
一方、家庭裁判所がした遺産分割審判(「判決」に準ずる効力を有する「審判書」が裁判所によって作成されます)に不服の場合は、高等裁判所へ即時抗告という名の不服を申し立てることができます。
しかし、そのハードルは非常に高いのが実情です。単に審判書の内容が自分の言い分通りにならなかったとしても、それだけを理由に即時抗告をすることはできません。
自分の主張を家庭裁判所が認めなかったことに問題があるという事を具体的に主張する必要があります。例えばまだ提出していない新証拠などを提出することにより、高等裁判所に再審理をもとめるなら即時抗告は認められるでしょう。
遺産分割の前提問題を解決できるか?
遺産分割調停では、相続人全員の合意があれば、前提問題(10)も解決できることがあります。前提問題とは、何が遺産に含まれるか、とか、誰が相続人に含まれるのか、という問題です。
また、寄与分や特別受益の主張についても前提問題として遺産分割調停で解決することができます。
ただし、前提問題の中でも、遺言が有効か無効かについての問題は、遺産分割調停では解決できません。ですから、遺産分割調停の中で、遺言の有効性の問題が出てきた場合は、裁判所は申立人に遺産分割調停の取り下げを促しています。
一方、遺産分割審判では前提問題を解決することはできません。特に寄与分については、別途寄与分を定める審判の申立てが必要です。これらは必ず遺産分割審判事件と一括審理されて、最終的に1個の審判がされます。なお遺産の範囲について争いがある場合は、実務上は、別途民事裁判で争うように促されます。
遺産分割の付随問題を解決できるか?
遺産分割の付随問題を解決できるかどうかは、上記の前提問題と同じ結論です。遺産分割調停であれば解決できることがあります。しかし、遺産分割審判では解決できません。そもそも付随問題は審判の対象とならないからです。
遺産分割の付随問題とは、専門書籍によると次のような問題の事を指すとされています(「家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(日本加除出版株式会社)」)。
- 使途不明金(関連の記事があります「遺産の生前の不正使用について」)
- 葬儀費用や遺産管理費用の清算(関連の記事があります「遺産分割において葬儀費用をどうするか」)
- 遺産収益(相続開始後の賃料・配当金)の分配
- 相続債務の整理・分担(関連の記事があります「借金は負担しないという遺産分割協議はできるか?」)
- 被相続人との共有不動産
- 遺言の執行について(関連の記事があります「遺言執行者の権限強化(特定財産承継遺言)」
- 同族会社の経営権
- 老親の扶養・介護
- 遺産土地の境界・通行
- 金銭貸借に関する問題
- 祭祀承継(関連の記事があります「【司法書士監修】総まとめ祭祀の承継|墓や仏壇は誰が相続するか」)
当事務所へ特にお問い合わせの多い付随問題については、関連の記事を用意しております。もしよろしければそれぞれの項目にある青いリンクをクリックしていただき、ご一読くださいませ。
遺産分割調停・遺産分割審判後の相続手続き
銀行の手続も登記手続きも、基本的には、裁判所から発行される遺産分割調停調書・遺産分割審判書があれば可能です。相続人全員の印鑑証明書や署名捺印を求められることはありません。
銀行手続であれば、遺産分割調停調書・遺産分割審判書を添付して払戻し等をすることができます。
登記手続きであれば、遺産分割調停調書・遺産分割審判書を添付して自己名義に登記をすることができます。ただし、他の相続人との共有名義となる場合は、自己の相続分のみの相続登記は手続き上できません。
遺産分割調停で解決した事例
相続人が十数名いて、いずれも高齢者。中には認知症の方も2名おり、困ったことに相続人同士が遠縁という事例がありました。
生前に被相続人のお世話をしていた代表相続人がいるものの、上記のような状況では相続人同士での話し合いは困難でした。
代表相続人の尽力により、法定相続分通りで分割するという事まではまとまったものの、認知症の方のご家族が相続手続きに強固に反対しました(相続手続きのために成年後見人を選びたくないという理由です)。
もう一方の認知症の方のご家族は協力的でしたが、全員の合意が得られなければ相続手続きは行えません。そこで、やむを得ず遺産分割調停を申し立てました。
最終的には、遺産分割調停で無事に法定相続分通りにまとまり、相続手続きを完了させることができました。
この調停は、法定相続分で分割するということが既定路線であり、遺産分けで争う内容ではなかったため、調停期日は2回ほどしか開かれませんでした。また、ほとんどの相続人は高齢者なので、期日に出頭することもなく(代表相続人と書類作成代理人・参考人として当職は出頭)、「書面照会(裁判所からのお尋ねに書面で回答する方式)」で終わりました。
さいわいなことに遺産分割調停自体は素早く終わりました。しかし、その事前準備に多くの時間を費やしました。2つの認知症のご家族を説得することと(遺産分割には後見人を立てる必要がある旨)、遺産も多く分割の難しいもの(売却困難な不動産)もあったため、大まかな分割案を練るだけでも非常に難航しました。
このように遺産分割調停で解決した事例もある一方で、話し合いが決裂したまま遺産分割調停の申立もされず、暗礁に乗り上げてしまった事例も多数あります。
この場合、下記に説明するような「相続人会議」の提案はしますが、そもそも相続人会議の出席を拒否したり、会議をしてもお互いが譲歩できないようなときは、結果的に「相続手続きの放置」の状態となります。
相続手続き放置の状態がいかに危険で、子孫の世代に過大な負担を残すことになるかは、別の記事で説明しています。もしよろしければお読みください。
やってはいけない「相続手続きの放置」
結局、遺産分割調停・審判ですべての問題を解決できるのか?
例えば、相続人中の1名が法定相続分を逸脱した不当な要求をしているような場合、遺産分割調停においては、その根拠となる資料(例えば寄与分の具体的金額など)を調停委員から求められます。
その求めに応じることができないようであれば、不当な要求である旨を調停委員から諭されることになります。
しかし遺産分割調停はあくまで相続人の合意が前提ですから、その相続人が分割案に依然として納得しないようであれば、調停不調として遺産分割審判に移行します。遺産分割調停に移行すれば新たな資料等がない限り、原則的には法定相続分で分割されることになります。
つまり、遺産分割調停や遺産分割審判で解決可能な事柄で話し合いが紛糾している場合は、最終的には調停・審判で決着を付けることができます。
しかし、上記に掲げた「遺産分割の前提問題」や「遺産分割の付随問題」で話がこじれている場合は、必ずしも調停・審判は万能ではありません。
遺産分割調停や遺産分割審判に過度な期待や、制度の誤解があると、自分が思っていた通りの対応や結果が得られず、これらの長期間にわたる相続争いで無力感に襲われることもあるかもしれません。
専門家が立会う「相続人会議」のススメ
遺産の分割は、まずは相続人同士の話し合いが原則です。話し合いが決裂した場合に限って、遺産分割調停や審判の選択肢を検討することになります。
しかし、「話し合いが決裂した」という程、本当に相続人同士で話し合いをしたでしょうか。
すぐに調停・審判とする前に…
すぐに遺産分割調停・審判を検討する方に限って、きちんとした相続人同士の話し合いを済ませていない場合があります。
手紙やメール等の簡単なやりとりだけで直接当事者同士が話をしていないという場合もありますし、何のやり取りもせず「こっちが何を言っても反対するに決まっている」などと相手の態度を決めつけ、話し合いによる解決を放棄している場合もあります。
また、そもそも相続に関する正確な知識の理解に欠けていたり、インターネット等の誤った情報による誤解により、相続人だけでは話し合いの舵取りが上手く行かないという場合もあります。
さらに、専門家でもないのに中途半端に知識のある人(相続人中の1人や相続人ではない親戚)が介入して、前に進まなくなっているケースもあります。
いずれにしても、このような場合に、すぐ調停・審判を申し立てるのは時期尚早だと考えます。では一体どのようにすればよいのでしょう。
専門家の立会いのもと、正式な「相続人会議」の開催
相続問題を解決するのに、わざわざ裁判所に行きたいとは誰も思いません。話し合いで納得する解決方法が見つかるのであれば、誰しもそうしたいと願いことでしょう。
「相続人同士だけでは話しづらい」「法律に沿った説明を全員にしてほしい」というご要望にお応えする形で、当事務所の司法書士(税務上のアドバイスも希望される場合はパートナー税理士も同席)が、遺産分割協議の司会進行役等を務める「相続人会議」の開催サービスを承っています。
相続手続きに不信感を抱いている相続人がいるケースや、法律に無知なため不当な要求をしてくる相続人がいるケースなどは、専門家からの法律に沿った説明を受けることにより、自身の勘違いや不安が解消される契機となり、遺産分割調停や審判によらずに問題が解決できることもあります。
当事務所の「相続人会議」の実施要項
当事務所で行っている「相続人会議」の実施要項は以下の通りとなります。
①お受けできる要件 |
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②会議の招集通知 | 事前に出席可能な日時を個別に調整して、当事務所から相続人全員へ発送します |
③場所 | 新宿駅徒歩3分の貸会議室 |
④日時 | 平日・土日・祝日の午前9時~午後6時まで |
⑤料金 |
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⑥料金に含まれるもの |
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⑦料金に含まれないもの |
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⑧会議で当事務所が行うこと |
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⑨会議で当事務所が行えないこと |
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- ③場所は、ご希望があればご自宅など別の場所でも構いません。
- ④日時は、土日祝日も対応しています。その場合でも追加料金はかかりません。
- ⑦料金に含まれないものとしては、「客観的文案資料の作成代」があります。ご要望に応じて作成します。要否については個別にお問い合わせください。
- ⑦会議で協議が成立した場合は、協議の内容を基に「遺産分割協議書」として正式な法的文書を作成することも可能です(別途料金2万円(税別)より)
- ⑧会議で当事務所が行うのは、主に中立的な立場による法的事項の説明です。仮に遺産分割調停を申し立てた場合に、裁判所からされるような内容をわかりやすく丁寧に説明します。
- ⑨会議で当事務所が行えないことは、いわゆる「非弁行為」と呼ばれるものです。弁護士でない者が本人の代理人として他人と交渉事をすることは法で禁じられています。
なお、この相続人会議の開催サービスは、遺産分割協議の成功をお約束するサービスではございません。
ご依頼者様の目的が達成できなかったとしても当事務所は責任を負いかねます。また返金も致しかねます。予めご了承ください。
無料相談を受け付けています
私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。
このページでは、「遺産分割調停と遺産分割審判|早わかり」についてお話ししました。
遺産分割調停と遺産分割審判の違いはお分かりいただけたでしょうか。
遺産分割調停の申立手続きをこれから始めるにはどうすればよいのか、費用はいくら位かかるのか、どの位の期間で完了するのか、様々な疑問があることと思います。もちろん当事務所では申立書類の作成も承っています。
また、当事務所が主催する「相続人会議」について、具体的な手続きを知りたいということもあるでしょう。まずはお電話下さい。
専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。
毎週土曜日に無料相談を受け付けていますので、この機会にお気軽にお問い合わせください。
お電話(代表042-324-0868)か、予約フォームより受け付けています。
東京司法書士会会員
令和4年度東京法務局長表彰受賞
簡裁訴訟代理等関係業務認定会員(法務大臣認定司法書士)
公益社団法人成年後見リーガルサポート東京支部会員
家庭裁判所「後見人・後見監督人候補者名簿」に登載済み
公益財団法人東京都中小企業振興公社「ワンストップ総合相談窓口」相談員
公益財団法人東京都中小企業振興公社「専門家派遣事業支援専門家」登録