【司法書士監修】遺言書は認知症でも作成できるか|有効無効を争う方法も解説
「認知症の母親でも遺言書は作れるか?」「認知症だった父が書いた遺言書は有効なのか?」は、当事務所に多い相談の一つです。あなたも同じ悩みを持っていますか?
認知症の方が法的に有効な遺言書を残すことは可能なのでしょうか。あなたの両親が遺言書を残したいと相談してきたら、あなたはどうすれば良いのでしょう。
このページでは創業20年、地域随一の相続専門の司法書士事務所が「【司法書士監修】遺言書は認知症でも作成できるか|有効無効を争う方法も解説」と題して、今まさに相続問題でお困りのあなたの疑問にお答えします。
このページを見れば『認知症(の疑いがある場合を含む)の両親から遺言書を書きたいと相談を受けた場合』や『認知症(の疑いがある場合を含む)の方が書いた遺言書を発見した場合』の具体的な対策・対処方法や注意点ついて、これまでの疑問点がスッキリ解決すると思います。
このページは「遺言・認知症」などのキーワードで様々なサイトを検索・調査し、不安になっているすべての相続人・その家族に向けたものです。ご参考になれば幸いです。
認知症の方でも遺言書は作れる
認知症の方でも遺言書は作れます。作れないという法律はそもそもありません。ただし、認知症の程度の問題はありますし、作り方・作成方法(手書き自筆で作るか公証役場で作るか)の問題もありますので、順に解説していきます。
遺言書は本人が作成するもの、家族が本人に代わって書くことはできない
「遺言書(遺書とも言いますが法的な意味は同じです)は本人の最終の意思」とも法律上は言われています。
本人の「自分が死んだあとはこうしてほしい」という願いが書かれている文書であるためです。
ですから、遺言書は本人の意思に基づいて作成されたものでなければならないし、本人自身が作ったものである必要があります。
したがって、家族が本人の代わりに代筆して書いたり、本人から頼まれてもないのに公証役場に連れて行って遺言書を作らせるようなことはできません。
遺言書はあくまで本人自身が作成するものですから、「家族の代理」とかは無関係ということです。
認知症の程度もひとそれぞれ、本人に遺言を作るだけの能力があるかがポイント
認知症と言ってもその進行状況・症状の程度はひとそれぞれです。正式に医師から診断されている場合もあるでしょうし、正式な医師の診断は出ておらず、家族からみて「最近ちょっと様子がおかしいかな」という程度の場合も多くあります。
いずれの場合も、まずは本人に遺言書を作成できるだけの能力があるかどうかがポイントとなります。
症状が重く、たとえば家族の顔もきちんと認識できない、会話も成立しないという状態であれば、常識的に考えて遺言書の内容を自分で考えて作成するということは不可能に近いでしょう。
その一方で、認知症の診断がされているされていないに関わらず、多少の物忘れ程度で、家族の顔も認識でき、会話も普通、日常生活もあまり支障がないというのであれば、遺言書の内容も自分で考えることができるかもしれません。
だだし、今日作成した遺言書のことを、次の日には全く覚えていなくて「そのような遺言書のことは知らない」などと言えば、それは法律上は遺言を撤回したことになるとも考えられ、結局無効となってしまいますので注意が必要です。
認知症でも成年後見人が選任されてしまっていると、遺言書の作成は難しくなる
認知症と診断され、なおかつ、家庭裁判所で成年後見人が選任されてしまっている場合は、本人が遺言書を作成することは少し難しくなります。
民法の973条に次のような規定があります。
第九百七十三条 成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。2 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。
|民法e-Gov法令検索
概要を簡単に要約すると、家庭裁判所で成年後見の審判がされてしまっている方が遺言書を作成するには、自筆証書であるか公正証書であるかを問わず、次のような要件を満たさなければなりません。
- 事理を弁識する能力を一時的にでも回復していること
- 医師が2人以上立ち会っていること
- 立ち会った医師が遺言書に「遺言書作成時に本人の能力は大丈夫であった」と署名・捺印すること
要件が厳しすぎて、あまり現実的ではありません。確かに方法はありますが、成年後見人が選任されている認知症の方が実際に遺言を作るのはほとんど無理ではないでしょうか。当事務所での事例はありません。
しかし裏を返せば、この要件をクリアーできていれば、認知症でも完全に有効な遺言書が作成できるとも言えます。
認知症の方が遺言書を作る方法としてベストな方法はあるのか
成年後見人が選任されていない認知症の方の一般的な遺言書の作り方・方式として、代表的な方法が2つあります。
- 自筆証書遺言(本人が手書きで作成する)
- 公正証書遺言(本人から聞き取った内容で公証人が作成する)
それではそれぞれの方法について、認知症の方が作成していく場合の注意事項などを順に解説していきます。
本人が手書きできるのであれば自筆証書遺言のやり方がある|費用はかからない
自筆証書遺言の作成方法とは、一言で言えば、本人が手書きで作る簡易なやり方のことです。
現在の法律ではパソコンやスマートフォンなどで作成することはできず、もっぱら直筆によるものとされています。
法律上の要件としては、手書きで書いてある、名前と日付が書いてある、印が押してある、といった簡単なものです。用紙の大きさや色などは一切指定はありませんし、印も実印である必要はなく、どんな印鑑でも構いません。
認知症の方が作成する場合の重要なポイントしては「内容はシンプルにする」ことです。例えば「自分の全財産を長男に相続させる」などのようにです。相続財産を全部1人に相続させる程度の内容であれば、それほど高い遺言能力は要求されないものと考えます。
この方法のメリットは、費用が全くかからないということです。本人が手書きで書くだけですから当然です。
この方法のデメリットは、証人や立会人がいないので、死後に遺言書が問題となった場合に、本当に本人が書いたものかどうかが分からず(作成当時に意思能力があったかどうかもポイント)、裁判の結果、無効になってしまう可能性があるということです。
さらにもう1点デメリットをあげるとすると、作成した内容について弁護士や司法書士、公証人などの専門家が関与しているわけではないので、法律的に誤った内容になりがちということです。
自筆証書遺言を法務局にあずけることができる|法務局保管制度を利用すべし
もし予算などの関係で、どうしても自筆証書遺言の方法で作成したいとなった場合には、作成した遺言書を法務局に預ける方法があるので、是非検討してみてください。
なぜ法務局保管制度を利用することをお勧めするかと言いますと、保管の際に、法務局が「本人確認」をしてくれるからです。
遺言書の内容などには一切相談は乗ってもらえませんが「本人確認」さえしてくれれば、少なくとも「本人の意思に基づいて作成した」という証拠は残ることになります。そこが良いのです。
詳しくは当事務所の別のページ・記事で詳しく解説していますので是非チェックしてみてください。
なお、法務局の保管制度を利用する場合には、遺言を書く用紙や余白の大きさなどに規定がありますのでご注意ください。
裏ワザとして自筆証書遺言を信頼できる家族に郵送してしまう方法もあり
もし認知症の方が自筆証書遺言を書いたら、できれば上で説明した法務局保管制度を利用してほしいのですが、それも難しいというのであれば、信頼できる家族に郵送してしまうという方法もあります。
普通郵便でもいいのですが、書留や配達証明郵便の方がなお良いと思います。このことが死後に遺言書の有効性が問題となったときにどれだけ有利に働く証拠になるのかはわかりませんが、少なくとも「わざわざ郵便局で発送した」という事実は残ります。
いずれにしても自筆証書遺言は、管理上の問題があり、死後に発見されないということもありますから、なるべく誰かに預けた方が良いでしょう。
しかしその反面、預かった人が遺言書を紛失したり、わざと破棄したりする可能性もあります。
ですから、こちらの方法は他に選択肢がないという場合の最終手段と考えてもらった方が良いかもしれません。
公証人に内容を伝えて公証人に作成してもらう公正証書遺言の方法|費用はかかるが安心確実
認知症であっても公証役場で公正証書遺言を作成してもらうことは可能です。
本人が認知症であるかどうかというのは、個人の尊厳に関わることでもあったり、非常にナーバスな問題でもあるので、公証人から認知症であるかどうかの確認を積極的に求められるということは、これまでの経験上ありません。
しかし、公証人は最終的に本人に対して遺言内容の確認をもとめます。公証役場での作成日当日においては、公証人は、まず、本人に氏名や住所、生年月日などの個人情報を尋ねます。
その時点で明瞭な返答がなければ「遺言の作成能力はない」と判断されることになり、作成は不可能になるでしょう。
また、公証人によっては「今回の遺言の内容を簡単に説明してください」などと質問する場合もあります。
公証人は医師ではありませんから、本人に遺言作成能力があるかどうか、正確な判断はもとめられませんが、少なくとも、通常の意思能力があれば答えられるような内容について、明確な返事がなかったとなれば「能力はない」と判断されます。
反対に、たとえ認知症であったとしても、公証役場での作成日当日時点において、公証人の質問にきちんと回答できていれば、とりあえずのところ問題なく公正証書遺言の作成は完成となります。
公正証書遺言は証人もいるため、認知症で心配ならこの方法がベスト
もし本人が「認知症ではあるが受け答えは大丈夫」というレベルであれば、公正証書遺言で作成するのがベストの方法であると考えます。
もちろん費用は掛かりますが、それを差し引いても、次の点で自筆証書の方法に比べてメリットがあります。
- 公証人が本人の意思確認をしている
- 証人2名が立ち会っている
- 公証人が内容のチェックをしている
- 死後の手続き(不動産の名義変更や預金の解約)は公正証書遺言書だけでできる
公正証書で作成すれば100パーセント大丈夫というわけではありませんが、自筆証書に比べれば、死後に無効とされる可能性は低くなります。
費用の面や手軽さだけで自筆証書の作成方法を選択すると、相続開始後にトラブルを発生させる原因にもなりますので、作成方法については十分に考慮する必要があるでしょう。
認知症の方が遺言書を作るときに診断書は必要か
認知症の方が遺言書を作るときに、診断書を用意しておいたほうが良いのでしょうか。
これは難しい問題ですが、少なくとも公証役場で遺言書を作成するときに診断書を要求されることはありません。
」という診断テストの点数に基づいて作成されます。
自筆証書で遺言書を作成するときも、法律上は特に診断書は不要です。
しかし、公正証書で作成しても、自筆証書で作成しても、認知症の方が遺言書を作成した場合、本人が死亡して相続が開始したとき、その遺言書があることによって不利な立場に置かれることとなる相続人から「遺言は無効である」との主張(遺言を否定)がされることがあります。
下で説明しますが、その場合、調停(家庭裁判所)→裁判(普通の裁判所)の流れとなるのが一般的です。争点は「遺言書を作ったときに能力があったかなかったか」です。
ですから、もしその医師の診断書の内容が「能力はある」というものであれば、診断書を用意しておいてよかったとなります。診断書を書いた医師も「能力がある」と認めているのであれば、遺言書は完全に有効だからです。
反対に「能力はない」という診断内容であるにも関わらず、本人が遺言書を作成したというのであれば、とりあえず遺言書自体は作成できたかもしれませんが、調停→裁判の過程で死後に無効とされてしまうでしょう。
つまり、良くも悪くも診断書は本人の能力を証明する重要な証拠として後に残ってしまうものですから、発行してもらうかどうかは十分検討したほうがよいでしょう。
認知症の方の遺言書がある場合の対処法として正しいのは?
では次に、『認知症(と思われる場合を含む)の方が書いた遺言書を発見した場合』の具体的な対策・対処方法や注意点を解説します。
遺言を前提としない遺産分割協議を提案してみる
まず1つ目の方法として、他の相続人に対して「遺言書は問題があるのではないか(認知症のため)」と説明して、遺言書を前提としない、相続人全員による遺産分割協議を提案するというやり方があります。
もちろん遺言書の内容によって「得する相続人」と「損する相続人」がいる訳ですから、調整は難しいかもしれませんが、相手が合意しない限りこの方法はできません。
合意できない場合は、遺産分割調停・審判よりも、遺言が有効か無効かを確定させた方がよい場合が多いため、通常はこの後解説する2つ目の方法(裁判)になるかと思われます。
遺言が有効なものであれば、遺言書通りに相続を行うのが通常です。しかし、たとえ遺言が有効であっても、相続人全員の同意があれば遺言書の内容とは異なる遺産分割協議をすることは法律的にも有効です。
また、認知症などを理由に、遺言が有効かどうか確信がない、という場合も、相続人全員の同意により遺言とは異なる内容で遺産分割協議をすることができます。
つまりこのように遺言の効力に問題がある場合、必ず裁判等で有効・無効を確定しなければならないということはなく、相続人全員の合意があれば、遺言書を無視して、遺産分割協議によって遺産を分けることもできるのです。
裁判をして遺言が有効か無効かはっきりさせる|遺言の無効確認の調停・訴え
1つ目の方法を試してみて、これが無理だというのであれば、2つ目の方法によるしかありません。
2つ目の方法は、家庭裁判所に対して「遺言の無効確認の調停を申し立てる」方法です。しかし調停をしても相続人全員の合意は成立しないことが多いので、その場合は調停が成立しないものとしてそのまま事件が終了することになります。
調停不成立の場合は、遺言の無効を確認するために「遺言無効確認の訴え」を地方裁判所へ別途提起することになります。
遺言無効確認請求訴訟の結論が出るまで、通常1年以上はかかります。この裁判は相続人自身ができるような手続きではありませんから、代理人(弁護士)に依頼することになります。
その場合、時間がかかると同時に費用もかかりますから、費用対効果を慎重に検討すべきでしょう。
遺言は有効なものとして遺留分の請求をする|遺留分侵害額請求
1つ目の方法(遺産分割協議)も、2つ目の方法(裁判)も難しいというような場合、遺留分の請求だけするという選択肢もあります。
遺言の効力が問題となる場合には、遺留分が侵害されていることが多くあります。
遺産分割協議が難しく、裁判も費用対効果が得られないと言うのであれば、侵害されている遺留分のみ請求して断念するやり方もあるかもしれません。
しかし、遺留分の請求は裁判によらなくてもできますが、その計算方法は複雑で、侵害額について対立することも多いため、結局代理人(弁護士)を立てて話し合いとなったり、裁判になったりすることもあります。
最終的に裁判になるのであれば、2つ目の方法(遺言無効の裁判)の中で、遺留分の請求を予備的に主張していくことも手続き上は可能ですから、はじめから2つ目の方法のほうがいいかもしれません。
弁護士などに相談の上、どの方法によるかは専門家のアドバイスを受けてから決定した方がよいでしょう。
認知症の方の遺言書作成はどうするべきか?
以上のように「認知症と遺言書」の問題を考えたとき、作成する側も慎重にならざるを得ませんし、遺言書を発見した側も対処法を十分に検討しなければならないことになります。
作成する側としては、やはり十分に能力があるうちに遺言書は備えておくべきであろうと思います。
もし認知症であれば、最低でも自分で遺言書の内容を考えられる能力が備わってなければならないという認識(家族からの助言)が必要となります。
そして、そのような遺言書を発見した相続人側としては、遺言書を有効なものとして遺産分けをしていくのか、無効なものとして遺産分けしていくのか、非常に悩ましい選択を強いられることになります。
いずれにしても認知症の方が作成した遺言書は、死後に有効か無効かの評価が争われる可能性が高いということはご理解いただけたでしょうか。
最後に|いまなら無料相談が受けられます
私たちは、遺産相続の手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。オンラインにより全国対応をしています。
このページでは、「【司法書士監修】遺言書は認知症でも作成できるか|有効無効を争う方法も解説」と題して、相続手続き専門の司法書士の立場から、まさに今あなたが困っていることについて、知っておくべきことを解説しました。
このページでお伝えしたかったポイントは次の3点です。
- 認知症でも自筆の遺言書・公正証書の遺言書どちらも作成できる
- 成年後見人が選任されている認知症の方が有効に遺言書を作成する方法はある
- 認知症の方の遺言書は、相続開始後に調停や裁判をする(争いになることが多い)
遺言書の作成手続きや、その後の遺言の執行(遺言の内容通りに行う相続手続きのこと)を速やかに行うためには専門的な知識が必須となります。個人の力では限界があるかもしれません。
ぜひそのような問題を解決する場面で私たち相続手続きの専門家をご活用いただければと思います。
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