【司法書士監修】遺言書に遺言執行者がなければ無効なのか?
「故人が残した遺言書に遺言執行者が書かれていないのですが…」。当事務所にいただく、よくある相談の1つです。
そもそも遺言書には遺言執行者が書かれていないといけないものなのでしょうか。遺言執行者の記載のない遺言書は無効となってしまうのでしょうか。
このページでは、「司法書士監修|遺言書に遺言執行者がなければ無効なのか?」と題して、創業20年の相続専門の司法書士事務所が、遺言書に遺言執行者が書かれてない場合の対処方法を分かりやすく解説します。。
このページを見れば、遺言執行者の記載のない遺言書を残された相続人皆さんのこれまでの疑問点がスッキリ解決すると思います。
遺言書に遺言執行者が書かれていなくても有効
まず、その遺言書が手書きで書かれた自筆証書遺言であっても、公証役場で作成した公正証書遺言であっても、遺言書の種類を問わず、遺言執行者の記載は必要不可欠な内容ではありません。
つまり、遺言書の中に遺言執行者が記載されていなくても、それだけで遺言自体が無効になることはないので、安心してください。
ただし、それ以外の原因で遺言書が無効となることはあるので、特に自宅で保管していた自筆証書遺言については十分に注意する必要があります。
例えば、氏名や日付が記載されていなかったり、押印がされていなかったりすると、それだけで遺言書は法定の要件を満たしていないことを理由に無効となります。
遺言執行者の記載のない遺言書で相続手続きは可能か?
遺言執行者が書かれていない遺言書で、名義変更をはじめとする遺産相続の手続きができるのか、についてですが、一般的な相続手続きなら可能です。
つまりこの問題は「遺言書による相続手続きに遺言執行者は不可欠なのか?」と言い換えることもできます。
下記でケースに分けて詳しくお伝えしますが、3つのケースで結論が異なってきます。遺言書に書かれている内容によってその結論が異なるということです。
- 「絶対に遺言執行者が必要」な遺言書のケース
- 「遺言執行者がいてもいなくても良い」遺言書のケース
- 「遺言執行者は不要」な遺言書のケース
結論だけ先にお伝えすると、経験上ほとんどの遺言書は「2」か「3」に該当しますから、遺言執行者の記載はなくても、大抵の場合は相続手続きはできることになります。
またもし「1」に該当するとしても、遺言書に遺言執行者の記載がないのであれば、これから選んでもらうことはできますから、遺言書が無効になることはありません。
「絶対に遺言執行者が必要となるケース」はかなり特殊
絶対に遺言執行者が必要となるケースとして、1番目は遺言書で「婚姻関係にない異性との間にできた子」を認知している場合です。
認知は故人の生前でもできたわけですが、家族に迷惑をかける等のトラブル防止の理由で、生前にはあえて認知をせずに、遺言書で認知をすることもできます。
この場合は、遺言執行者がその就任(選ばれて承諾すること)の日から10日以内に届出をしなければならないとされています。ですから、必ず遺言執行者を選ぶ必要があるということです。
次に、2番目は遺言書で特定の相続人を廃除(またはその取り消し)している場合です。廃除とは、裁判所に申立をして特定の相続人の相続資格を剥奪するための制度です。
この場合は、遺言執行者が故人に代わって特定の相続人の廃除を家庭裁判所に申立てしなければならないとされています。ですから、この場合も必ず遺言執行者を選ぶ必要があります。
この他に遺言執行者が絶対に必要となるケースとして、「一般財団法人設立のための定款作成および財産の拠出の履行(一般法人法152条、同157条)」もありますが、当事務所ではこのような内容の遺言を見たことがありません。
ほとんどは「遺言執行者がいてもいなくても良いケース」に該当
遺言執行者がいてもいなくても良いケースとして、1番目は遺言書で法定相続分を超える相続分の指定をしている場合です。
法律が定める相続分を「法定相続分」と言いますが、実は法定相続分通りで財産を分けるという内容の遺言書は少ないです。
むしろ、ある相続人には多めにして、別の相続人は少なめにするような、つまり法定相続分を故人の意思で修正するような内容がほとんどです。
2番目は遺言書で特定の遺産を特定の相続人に相続させるとしている場合です。例えば「自宅は妻に相続させる」などです。このような内容の遺言も大変多いです。
3番目は遺言書に「●●に遺贈する」と書いてある場合です。このような内容もよく見かけます。遺贈を受ける人(受遺者と言います)は誰でも構いません。
その他にも、あまり見かけませんが、信託の設定について書いてある場合、祖先の祭祀主催者の指定がある場合、生命保険金の受取人の指定または変更の記載がある場合も同様です。
「遺言執行者は不要なケース」は幅広い
上でお伝えした2つのケース「絶対に遺言執行者が必要なケース」「遺言執行者がいてもいなくても良いケース」以外の内容が遺言書に書いてある場合は、遺言執行者は不要です。
例えば、未成年後見人が遺言書で指定されている場合は、指定された方が未成年者の後見人になるだけの話ですから、わざわざ遺言執行者を選んで…という話にはなりません。
また、例えば、遺言書の中に「死亡してから5年間は遺産分割は禁ずる」と書いてあった場合も、相続人としてはその通りにするだけですから、その内容について遺言執行者を選任するという話になりません(5年経過後は必要となるかもしれませんが)。
つまり、たとえ遺言書に何か書いてあったとしても、その内容が遺言執行者に頼んで特別な作業をしてもらうようなものでなければ、そもそも遺言執行者は不要となるわけです。
絶対必要なケースでなくとも遺言執行者は選んだ方が良い理由
法律上、遺言執行者が絶対に必要となる場合は非常に少ないわけですが、遺言書を使った相続手続きにおいては、ほとんど皆さん遺言執行者を選んでいるようです。
その理由としては…
- 金融機関に「遺言書を使う手続きなら遺言執行者を選んでください」と言われたから
- 金融機関に「遺言執行者を選ばないなら相続人全員の印鑑証明書等の書類が必要」と言われたから
つまり、遺言書を使った相続手続きは2通りのやり方しかありません。1つは遺言執行者が単独で手続きを行うやり方。もう一つは、遺言執行者を選ばずに相続人全員で手続きを行うやり方。
そもそも、遺言書を使って相続手続きを行う最大のメリットは、相続人による遺産分割・協議・話し合いが不要となり、その結果相続人それぞれの署名押印・印鑑証明書が不要となる点にあります。
しかし、それは遺言執行者を選んでこその話です。もし遺言執行者を選ばないのであれば、結局相続人全員の協力がない限り相続手続きは進まないことになるのです。これでは本末転倒です。
ですから、法律上必ずしも遺言執行者が絶対必要でなくとも、相続手続きをスムーズに終わらせるために、ほとんどの相続人は遺言執行者を選ぶ手続きを選択しているというわけです。
遺言執行者の選び方|家庭裁判所の審判が必要
それでは、遺言書に遺言執行者の記載がなく、相続手続きのために遺言執行者を選びたいとなった場合、どのようにすればよいのでしょうか。
遺言書に記載がない以上、「家庭裁判所に対して遺言執行者の選任の申立」をするしか方法がありません。相続人が契約書や覚書などで、協議により決められるようなことではありません。
遺言執行者は相続人でもなれるが…
さて、実際に遺言執行者はどうやって決められるのでしょうか。
家庭裁判所へ書類を提出する際に「申立書」に、誰を遺言執行者にしたいか申立人が自由に希望を書くことが認められています。これを「候補者」と言います。
最終的に「候補者」が遺言執行者に選ばれるかどうかは裁判所の裁量に委ねられます。場合によっては選ばれないこともあります。
特定の相続人を「候補者」と書くこともできます。つまり、遺言執行者になるために特別な資格は不要で、一般の相続人でも遺言執行者になることは可能であるということです(事例にもよりますが)。
ただし、未成年者と破産者は法律上欠格事由として定められているため、遺言執行者にはなれません。
「候補者」として記載した相続人を遺言執行者に選任しない場合は、家庭裁判所が職権で裁判所のリストに基づいて、通常は弁護士を遺言執行者に選任します。裁判所のリストによって職権で司法書士が遺言執行者に選ばれることはあまりありません。
候補者にはじめから特定の弁護士や司法書士を書くことはできる
このように「候補者」に相続人を書いておいたものの、裁判所から却下され、全く面識のない弁護士が遺言執行者として選ばれてしまうというケースは珍しくはありません。
「面識がない弁護士が遺言執行者に選ばれてしまったので解任したい」と裁判所に申し立てても、それが理由で解任されることはありません。遺言の執行が不適切など、特別の事由がない限り解任されることはないからです。
いずれにしても以上のような事態を避けるには、あらかじめ遺言執行者の業務に応じてもらえる専門家(弁護士や司法書士)を探しておいて、承諾をもらい、その専門家を「候補者」にしておく方法がよく用いられます。
こうしておけば、少なくとも全く面識のない専門家がいきなり自分たちの遺言執行者になるという不測の事態を避けることができます。
注意しなければならないのは、同意もなく勝手に「候補者」として申立書に記載しても、あとからその専門家より「就任拒否」されることがあります。その場合、結局面識のない弁護士が遺言執行者として選任されることになります。
ですから、専門家を「候補者」にする場合には、必ず事前の同意が必要となります。
*ただし「候補者」は「候補者」に過ぎませんので、専門家を指定しておいても裁判所の裁量で別の面識ない専門家が選ばれてしまう可能性はあります。
【手続き一覧】遺言執行者の選任の申立
その他、遺言執行者の選任の申立て手続きについて、必要な情報を一覧にまとめましたので以下にご紹介します。
書類提出先(管轄裁判所) | 被相続人の死亡時の住所地を管轄する家庭裁判所 |
申立ができる人 | 利害関係人(相続人・受遺者・相続債権者・受遺者の債権者など) |
申立費用 | 収入印紙800円、その他切手代 |
必要な書類 | 申立書、遺言者の戸籍謄本、候補者の住民票、遺言書のコピーなど資料 |
審判手続きの流れ | ほとんどは書面審理で裁判所への出頭は不要(おおよそ1~2カ月程度) |
申立書の作成や必要書類の収集など、自分で行うこともできますし、難しそうであれば専門家に依頼することもできます。
よほど簡単な内容でない限り遺言執行者は専門家に
遺言執行者は誰でもなれることは以上でお伝えした通りですが、実際に一般の相続人が法律が定める遺言執行者の権利と義務を正しく行使できるかはまた別問題と言えます。
遺言執行者には、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の権利義務を有し、その職務の執行には善管注意義務が課せられます(民法1006条、同1012条)。
具体的に遺言執行者にどのような権利や義務があるかは、遺言に書いてある内容にもよりますので、こちらでは詳しくお伝えしませんが、よくあるものを以下に列挙します。
- 相続人や利害関係人に対する遺言執行者の就任通知
- 相続人に対する遺言書の内容を通知
- 相続財産の調査および相続財産目録の作成
- 相続財産の管理(善管注意義務)
- 遺言執行を妨害する者に対する訴訟提起
- 遺言の内容通りに不動産の名義変更や預貯金の解約などの諸手続き
- 貸金庫の開扉
- 相続人に対する報告義務
- 遺言の執行の完了につき相続人・受遺者への報告義務
このように遺言の執行については、非常に範囲が広く、弁護士や司法書士など実務家向けの書籍も多数出版されているほど難解な点も含まれています。
もちろん遺言執行を専門家に依頼すればそれだけ報酬・費用はかかりますが、一般の方にこれらの手続きを法律に反することのないように適切に行うのは難しい以上、前向きに検討されてみてはいかがでしょうか。
この場合、相続を専門に扱っているような弁護士事務所や司法書士事務所を選択されると宜しいかと思います。
なお、相続人の間で遺言書通りに相続財産を分けることに異論がある場合(例えば一部の相続人から反対が出ているようなケース)は、訴訟などの手続きを視野にして進めていく必要がある関係上、相続専門の弁護士事務所に相談することをお勧めします。
遺言執行の報酬は遺産の金額などによって大きく異なる
例えば遺言書の中で相続人が遺言執行者に指定されている場合は、遺言執行者の報酬については書かれていない場合がほとんどです。つまり原則的に報酬はないということです。
これに対して、遺言書の中で弁護士や司法書士、あるいは信託銀行が遺言執行者に指定されている場合は、遺言執行者の報酬が記載されています(「別に定める報酬規程の通り」となっている場合が多いです)。
具体的な遺言執行報酬は、法律上の制限はありません。「遺産総額の●%」などのような報酬規程が多いように感じます。ちなみに当事務所の報酬のご案内については、別のページに記載があります。ご参照ください。
さいごに|いまなら無料相談が受けられます
私たちは、相続手続き専門の司法書士事務所です。東京国分寺で約20年に渡って相続問題に取り組んできました。オンラインにより全国対応をしています。
このページでは、「司法書士監修|遺言書に遺言執行者がなければ無効なのか?」と題して、相続手続き専門の司法書士の立場から、まさに今あなたが困っていることについて、知っておくべきことを解説しました。
このページでお伝えしたかったことは次の3点です。
- 遺言書に遺言執行者が書かれていなくても遺言書は有効
- 遺言執行者が書かれていなくても選んだ方が相続手続きは簡単
- 遺言執行者は手続きに慣れた専門家に任せるべき
遺言の執行を速やかに行うためには専門的な知識が必須となります。ぜひそのような問題を解決する場面で私たち相続手続きの専門家をご活用いただければと思います。
専門知識を有する私たちであれば、疑問にお答えできます。また相続問題に強い提携の税理士や弁護士もおりますので、全方向の対応が可能です。
いまなら毎週土曜日に面談(対面・非対面)による無料相談を実施しています。また無料相談は平日も随時実施しています。
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